黒猫にゃー。 Archive
黒猫にゃー。の冒険-4 (朗読付き)
****
配送に使われている小さなトラックの助手席に、黒いにゃー。がいます。
黒いにゃー。は大人しくシートにちょこんと座っています。
どうやら、営業所から荷物を届ける配送トラックに、一緒に乗り込んだようです。
「あと何件配送するにゃ?」
「うーん、あと10箇所くらい荷物を届けたら終了だよ」
「もう飽きたにゃ」
「もうちょっとだから大人しくしていてね」
小高い丘の道を走っていると、急に目の前が開けました。
「!」
「海だにゃ!」
「にゃー!にゃー!」
ドライバーが次の配送先にトラックを停めると、黒いにゃー。はトラックから飛び降りました。
「海はいいにゃ」
「海の向こうには何があるのかにゃ」
黒いにゃー。は海へ向かって坂道を歩き出しました。
**
「にゃ?」
坂道を歩いていると何かに気が付いたようです。
坂道の途中のアトリエには女の人が絵筆を持って大慌てをしていました。
アトリエの表札には「画家 キキ」と書かれています。
黒いにゃー。はしばらく眺めていました。
画家のキキさんは黒いにゃー。に気付くと、黒いにゃー。を抱き上げて話しかけました。
「どうしよう…」
「にゃー、にゃ?」
「明日までに展覧会の会場に絵を持っていかないとならないの」
「でも…、業者の手違いで明日までに持っていけなくなっちゃったの」
「にゃー!」
「にゃー!にゃー!」
「こんなことネコちゃんに言っても仕方がないわね…」
「ネコちゃん、ごめんね」
「にゃー!にゃー!」
黒いにゃー。は画家のキキさんの腕の中から離れると走り出しました。
「にゃー。が届けるにゃ」
「探すにゃ」
黒いにゃー。は、さっきまで乗っていた、配送用のトラックを探しに走ります。
坂道を降りきる手前でやっと配送中のトラックを見つけました。
「いたにゃ!」
「乗り込むにゃ!」
「どこへ行ってたんだい?」
「もう全部配送終わったところだから営業所に戻るぞ」
「運ぶにゃ」
「ん?もう全部配送し終わったんだぞ」
「まだあるにゃ」
「あっちに行くにゃ」
「こっちにゃ」
ドライバーは黒いにゃー。の言う通りにトラックを走らせます。
「ここにゃ」
「ここに行くにゃ」
「ここがどうしたんだい?」
「キキさんが困ってるにゃ」
「キキさんの荷物を運ぶにゃ」
「キキさんのところに行くにゃ」
ドライバーはわけもわからぬまま、アトリエのインターホンを鳴らします。
アトリエの中からは画家のキキさんが焦り疲れた顔をして出てきました。
「あら…、さっきのネコちゃん」
「このネコが、ここに来る仕草をしたものですから、ちょっと来てみたのです」
ドライバーは弱った顔をして
「何か荷物はございますか?」
と聞きました。
「実は…。この絵を展覧会の会場まで運ばなくてはならなくて…」
「絵ですか…。うーん、まいったな」
「やっぱり運べませんよね」
「にゃー!!」
「そうだ。美術品を運ぶ専任スタッフが今、どこにいるか聞いてみますね」
「もしもし…」
ドライバーは電話をかけ終わると笑顔で
「大丈夫」
「近くに美術品を運ぶ専任スタッフがいるので、今からこっちに向かってもらいます」
「安心して下さい。明日に届けられますから」
画家のキキさんの顔がみるみる明るくなって、黒いにゃー。を抱き上げました。
「ネコちゃんが連れてきてくれたのね。ありがとうね」
**
翌日。約束通り、展覧会の会場にキキさんの絵が届けられました。
展覧会の会場では、キキさんの絵の下に黒いにゃー。がちょこんと座り、誇らしそうな顔をしていました。
———
画家 キキさん(伊藤久美子さん)のサイトはこちら。
と
http://kiki.kumiko-ito.com/?eid=875127
キキさんの大好きな場所が七里ヶ浜なので、七里ヶ浜から上った先辺りをイメージ。
7月7日 朗読を追加。
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黒猫にゃー。の冒険 -3 (朗読付き)
****
黒いにゃー。は今日は多摩川のほとりにある営業所に来ています。
大都会の東京と言っても、ここは喧騒を離れて、柔らかな春の陽射しを受けのんびりしています。
「つまらないにゃー」
「おもしろくないにゃー」
黒いにゃー。はあまりの退屈さに散歩に出ることにしました。
多摩川のほとりから、小さな工場(こうば)が並ぶ町へと黒いにゃー。は出て行きました。
黒いにゃー。は、あちこちの町工場を眺めていきます。
なにやら金属の加工をしている工場や、機械の組立をしている工場もあります。
「!」
「にゃーだにゃ」
おや、黒いにゃー。は何かを見つけたようです。
黒いにゃー。は小さな町工場の、開けっ放しの引き戸に近づきました。
「えーと、この図面と、それと…、モーターはこれ」
「センサーはこれで、あとは……」
町工場のオヤジさんは、どうやら黒いネコが描かれている袋に書類を詰めて、送ろうとしているところのようです。
「どうやら運ぶみたいにゃ」
「ここで待ってるにゃ」
黒いにゃー。は、その書類が運ばれる荷物だと気付いて待っているようです。
カシャ。
開け放たれていた引き戸が閉まると、町工場のオヤジさんは鍵を閉め、一歩踏み出すと空を見上げました。そして駅の方へと歩き出しました。
「そっちじゃないにゃ」
「こっちにゃ」
どうやら営業所とは逆の方に歩き出してしまったようです。
「ニャー」
「ニャー」
黒いにゃー。は町工場のオヤジさんを呼び止めようとしますが、立ち止まる気配はありません。黒いにゃー。は付いていくことにしました。
「駅にゃ」
「どうしようかにゃ」
「乗るにゃ」
黒いにゃー。は、改札を通る人の足許をくぐり抜け、ホームへと入ってしまいました。
「書類を届けるにゃ」
やがて電車が入ってきて、町工場のオヤジさんは乗り込みます。後に続いて黒いにゃー。も乗り込みます。
黒いにゃー。は昼間の空いている電車に乗ると、シートに飛び乗りました。
電車は鉄橋を渡り、窓の外は多摩川の水面が光っています。
「いい天気だにゃ」
「どこに届けるのかにゃ」
黒いにゃー。の隣では、町工場のオヤジさんが不思議な顔をして黒いにゃー。のことを見ています。
****
「ニャー。ニャー」
「……おやおや、このクロネコはどこに行くんだろうか」
「クロネコ君、どこに行くんだい?」
「ニャー。ニャー」
町工場のオヤジさんはニコニコしながら黒いにゃー。のことを眺めています。
「……おや…、この宅急便の袋に描かれているクロネコにずいぶん似たネコだな」
書類が入っている袋に描かれているクロネコと、黒いにゃー。を交互に見比べながら何かを思ったようです。
「キミは…、この絵のクロネコ君と同じクロネコ君なのかな?」
「にゃあ!」
「そうか、そうか、じゃあ一緒にこの書類を届けよう」
どうやら、この町工場のオヤジさんは黒いにゃー。が袋に描かれているクロネコと同じネコだということに気付いたようです。
「クロネコ君、もうじき降りますぞ」
****
ピンポーン
「はーい」
「書類届けに来たんだ」
「あれ、珍しいですね。今日は宅急便じゃないんですか。どうしちゃったんですか?」
「あまりに天気が良くて気持ちよかったもんでな。それで散歩がてら届けに来た」
「それより…、この黒いネコさんは?」
「ニャー」
「ずっと一緒だったんだ。だからこのクロネコ君と一緒に届けに来たんだよ」
「ニャー」
「またまた。何を冗談言ってるんですか(笑)」
「ニャー!」
「本当なんだよ。なぁ?クロネコ君?」
「ニャ」
「じゃあ、今からこの黒いネコさんと、公園で散歩ですね」
「いってらっしゃい。黒いネコさんっ」
「ニャー」
****
「配達終わったにゃ」
黒いにゃー。は、町工場のオヤジさんに向かって「にゃー」と鳴くと、次の荷物を探しに駆け出して行ってしまいました。
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黒猫にゃー。の冒険 -2 (朗読付き)
黒いにゃー。は今日は草津にいます。
草津と言っても有名な草津温泉でにゃー。と、ゆっくり暖まっているわけではありませんよ。滋賀県は琵琶湖の一番南にある草津です。
草津の営業所で黒いにゃー。はうたた寝をしています。
何か面白い荷物がないか探しているのです。
運び込まれる荷物を見ては横目でちらり。そしてまたうたた寝です。
あまり大きくない荷物を見たときに黒いにゃー。は何かに気付きました。
「にゃあ!」
でもその荷物は営業所に運び込まれませんでした。どうしたことでしょう。
黒いにゃー。は後を付いていきます。
「おかしいにゃ」
「ウマのニオイがするにゃ」
どうやらあまり大きくない荷物からは馬のニオイがするようです。どうしたことでしょう。
あまり大きくない荷物を持った人間は、「〒」のマークがあるところに入っていきました。
そうです。黒いにゃー。の居場所とは商売敵なのです。
「どうするかにゃ」
黒いにゃー。は悩みました。
「忍び込むにゃ」
「今にゃ!」
そう言って黒いにゃー。は銀色の荷台に飛び乗りました。
荷物の隙間に身を隠し、荷室の扉が閉まるのを待ちます。
ガチャン。
荷室が閉まり、トラックは動き出します。
黒いにゃー。はさっきの馬のニオイがする荷物の元に向かいます。
「ウマ君いるにゃ?」
黒いにゃー。は袋に顔を入れてみました。
「にゃ?」
「なんにゃ?」
それは見たことのない金属で作られたものが2つ入っていたのでした。
にぶく光り、形はUの字型をしています。
そうです。馬の蹄鉄です。馬の蹄鉄が2つ入っていたのです。
蹄鉄と言っても競走馬の蹄鉄ですからアルミニウムで軽く作られています。
黒いにゃー。は、馬のニオイのする蹄鉄に手を伸ばして触ってみたり、ニオイを嗅いでみたりしてます。
「ウマに付いていたのかにゃ?」
脚を蹄鉄に載せてみたり、首に引っかけているうちに黒いにゃー。は眠くなってきました。トラックの振動が黒いにゃー。を心地よい眠りに誘うのです。
黒いにゃー。は夢の世界へと誘われます。それは草原でした。
草原の向こうには馬がいます。馬は草を食べています。
馬は顔を上げると前髪をたらして黒いにゃー。に言います。
「君はどこから来たんだい?」
「ニャー」
「もっとすごいものを見せてあげるからこっちへおいでよ」
馬はしゃがみ込み、黒いにゃー。に背中に乗るよう促します。
黒いにゃー。は馬の背中に乗ると、馬は立ち上がります。
前髪が風になびき、その風の先には競走馬が全速力で走っていました。
「すごいにゃ!」
黒いにゃー。はその迫力に圧倒されていました。まさに黒いにゃー。にとってははじめて見る光景だったのですから。
「君が持っているそれは、僕たち馬が足に履く靴なのさ」
「クツ!?」
「そうさ。それがないと足を痛めちゃうんだ」
「そうだ、それといいことを教えてあげよう」
「僕たちが履いたその靴を持っていると幸せになれるんだよ」
「幸せ!?」
「丸いところに幸せがたまっていくから逆さに持ってはだめだよ。いいね?」
「にゃー」
**
急に明るくなりました。荷扉が開いたのです。
黒いにゃー。は身を隠し、人間が見ていない隙にひょいとトラックから飛び降りました。
「ウマのクツがどこに行くのか見届けるにゃ」
少し離れたところから、馬の蹄鉄が入った袋の行き先を観察しています。
仕分けが終わり、小さな配達の車に乗せ替えられて、荷扉が閉まる間際に黒いにゃーは飛び乗りました。危ない、危ない。あと少しで見つかってしまうところです。
**
運転手さんは届け先を探しています。
「エミコ…、エミコ…。」
「おっ、ここだ」
…ピンポーン。「お届け物でーす」
競走馬が使っていた蹄鉄はエミコの元に届けられました。
幸せになる蹄鉄です。
でもね…、
「1つはにゃーがもらったにゃ」
黒いにゃー。の首には、猫には不釣り合いな大きさの蹄鉄がぶら下がっていました。
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黒猫にゃー。の冒険 -1 (朗読付き)
http://kamome.org/archives/431(リンク先はこれのリライト前なので削除しました)
の「ジジさん、行き先間違ってますよ」が意外にも評判良かったので、おだてにのって連載ものにしました。連載ものにするにあたって「黒猫にゃー。の冒険」とし、語調中心に若干リライトしました。この語調は慣れないのでちょっと実験。
****
「よし」
「よし」
職人はパナマ帽を裏に表にとひっくり返し、各部を確認しながらつぶやく。
裏にひっくり返し、ビン皮には注文主である、横浜の港に程近い処に住む男の名が刺繍されている。
「よし、出来上がりだ」
パナマ帽は職人の手からショップの店長に託され、店長は注文した男にメールを打つ。
…ご注文を頂戴した時期に比べますと随分暖かくなりましたね。
お待たせいたしました。
先日ご注文のこちらの帽子が出来上がりました。
そして店長は厳重に梱包すると、クロネコをイメージキャラクターにしている運送会社に託しました。横浜でパナマ帽を待つ男に届けるために。
**
東住吉区にある営業所の入り口にはうたた寝をする黒いにゃー。がいます。
運び込まれる荷物を片目で見てはつまらなそうにニャーと鳴き、またうたた寝をしてしまいます。
「!」
「にゃ?」
黒いにゃー。は何かに気付き、運び込まれた荷物の一つに歩み寄りました。
大きな円柱形の箱の一つ、横浜の男に届けられるパナマ帽に声をかける黒いにゃー。
「どこに行くのにゃ?」
「パナマ帽には旅が似合うにゃ」
黒いにゃー。はそう言うとひょいとトラックに乗り込み、パナマ帽が入っている箱に潜り込みました。そして頭にはパナマ帽を被りました。
黒いにゃー。とパナマ帽の旅の始まりです。
エンジンがかかりトラックは動き出します。高速道路をぐんぐん走り一路東へと向かいます。
荷室の隅では暗闇で瞳を丸くさせた黒いにゃー。がパナマ帽をスッポリと被り、荷扉に姿を写しています。
「似合うにゃ」
ガタン。
トラックが揺れて黒いにゃー。は帽子の丸い箱に転がりました。丸い箱に合わせて身体を丸めています。
高速道路を走るトラックの振動が、黒いにゃー。を眠りへと誘います。
黒いにゃー。は遠いエクアドルに思いを馳せ夢を見ます。キトの石畳の街並みにパナマ帽を被り颯爽と闊歩する黒いにゃー。
そして、遠い昔に栄えたインカ帝国に思いを馳せ夢を見ます。海へと続く段々畑を黒いにゃー。はパナマ帽を被り駆け下ります。
東へ向かったトラックは、黒いにゃー。の目的地を越えて今度は北上を始めました。
しかし、黒いにゃー。は荷室の心地よい振動に包まれて目を覚まさないでいます。
**
「寒いにゃ」
荷扉が開き、荷室に冷たい空気が流れ込みました。
黒いにゃー。は帽子の丸い箱を少し開くと、パナマ帽を背中に押しやり、隙間から顔を出しました。
「ここはどこにゃ?」
「ずいぶん寒いところみたいだにゃ」
黒いにゃー。は箱から出ると、パナマ帽を頭に被り、街へ出てみました。
「港街だにゃ」
「美味しそうな匂いがしてくるにゃ」
黒いにゃー。は朝市に並べられる美味しそうな海の幸を一つ口に咥えました。
「美味しいにゃ」
「こらっ!」
「ニャー!」
あらあら、一つ口に咥えたのを見つかってしまいました。
「逃げるにゃ」
「箱に戻るにゃ」
帽子の丸い箱に戻ってくると、何人かの人間が困った顔をしています。
「どうしたにゃ?」
「横浜に昨日届いているはずの荷物が、ここ函館に来てしまい困っているんだ…」
「ニャー!」
「困っても仕方ないにゃ」
「旅にはトラブルも付きものにゃ」
「いろんなことがあるから旅は面白いんだにゃ」
黒いにゃー。は箱に潜り込み、顔を出すと困った顔をしている人間達に言いました。
「そろそろ帰るにゃ」
「遠くに行くことに深い意味なんてないにゃ」
そんな黒いにゃー。に被られているパナマ帽にとっては、横浜の男の「道行き衣」として、一番はじめの旅の記憶が刻まれたところでありました。
**
Special thanks 文二郎帽子店
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