kamome.org – Shige-san's Collection

05 バイク乗り達の詩(投稿)

思い出は風の中に (七海から投稿)

by on 12月.06, 2010, under 05 バイク乗り達の詩(投稿)

 

まるでヒステリーをおこした女のよう2サイクルの甲高い咆哮が周りの建物を震わせ車体は天に向かって立ち上がろうとする。

交差点手前では2段、3段とギヤを落とし必要以上に回転が上がったじゃじゃ馬が嘶きを発する。

昨夜の強風にさらわれた木の葉が道いっぱいに広がり、また違う風に踊らされている

まるで木枯らしの精のようだ。

 

今頃は何をしているのだろう。

あの子に逢いたい・・いや贅沢な・・いや迷惑な話だ・・やめとけ。

せめて彼女が住んでいるあの街へなら・・

 

「お前はなんて女々しい奴なんだ」

 

そんな声が爆音と北風の中に聞こえてきた。

それはシャボン玉でも扱うよう付き合い方だった惚れたがゆえか

キスしか出来なかったあの子

最終的に「優しすぎるよ」彼女の涙をじっと見つめながらそんなふられかたをしたっけ。
 

それなりに女とのいくつかの夜を過ごし、快楽をあたえ気の利いた甘い言葉の一つも囁けると自負していた。

それなのに茶番な話だ。

 

「調子にのるな」

夢は蜃気楼のように遠ざかり目の前の現実には伸びきったカップラーメンと食べかけの冷えた飯がテーブルに並んでた。

取巻きの人間は同じ二輪を駆るも空気が合わない奴ばかりで、すれ違うのも嫌になりバイクに乗ることに遠ざかっていた。

シトシトと降る雨の午後一人ベッドにもたれながらバイク雑誌に写る奴らを眺めていた。
 

テーブルの上にギラギラとした割ったガラスを敷き危険な腕相撲をする男達

「ヘーぇこんなバイク乗りもいるのか」ふと思ったりしていた。

 

そんな屈折と退屈の中であの子だけが温もりであり光だった。

 

もう直ぐ街に着く

こんな田舎町だ街並みなど変わるはずもなく自動販売機でコーヒーをだらしなく口に含んだ。

逢えるはずもないのに胸の鼓動が止まらない意識すると余計に回転が上がってゆく感じだ。

どうしても彼女の事が知りたくなり公衆電話に手を掛けたダイヤルを回す勇気もなくガシャンと受話器を置いた。

後悔を背に湿っぽい排気音と共に帰路についた。

 

随分と経ったころ、俺の名前を呼ぶ馴れ馴れしい男の声がした。

「ほんと久しぶりっすねぇ!」

相変わらずノリが軽く暑っちぃ奴だ。

コイツは路線は違ったがバイク乗り・・いや純粋な悪党だ。

女をナンパし食事をご馳走すると言いながらコンビニ弁当を投げ与え夜に至ってしまうような奴だった。

だが非常に純粋なところもあり妙なところで気が合った後輩だ。

そんな奴から彼女の事が口にでた。

現在は酒もタバコもやらない男と家庭を築き、もう直ぐ3人目が生まれるという

なぜコイツがこんなにも彼女の事に詳しいのか?実はコイツ・・彼女のいとこなのだ。
 

心無い振りをし「あいつ幸せにやっているのか?」と聞くと「うん、だね。」とだけ返事をした。

 

そうか幸せならいいや。首筋をやさしい風が過ぎて行く

 

風がまた「女々しい奴め」と笑った。

END

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(20)- 連鎖 -

by on 10月.28, 2006, under 05 バイク乗り達の詩(投稿)

 2002年頃

  - 連鎖 -       
   ダメ人間隔離掲示板に捧ぐ    (山端千夏)

このままにはしておけない…
そうだ。彼奴のせいで何人も…
しかし…、もし失敗でもすれば。
ああ。だがこのままでは、我々はもう、一生…
沈黙が流れる。重苦しい空気が画面いっぱいに広がるのが
誰にも感じ取れた。
やりましょう!
鉛色の暗闇を破る雷光のように、一人からその言葉が発せられた。
その言葉は、皆にまとわりつく虚無感を一瞬で払拭した。
おお!というそれぞれの思いに呼応する叫びが画面から伝わってくる。

そう…やるしかないのよ。
白いカップに入ったレモンティの香りにつつまれながら、
画面を見つめ、女はつぶやく。
だって、そうでしょ…
そして、薄い桜色の唇の端に、微かな笑みが浮かぶ。
いけないのは、貴方よ。
乳白色のキーを女の細い指先が叩く。
画面が紅に染まった。

実際問題、どうなんだ?
んだよ、今更、そんなこと…
いや、それはおさえておいた方がいいぞ。
そうだな。この先、どこで同様のことがあるとも
限らないからな。そのためにも詳細を…
同様のことは、そこかしこで起きているんじゃないのかな。
私もそう思うわ。
世の中見渡してみろよ、声と態度がでかいヤツが意味もなく采配をふるっているだろう
ちっ、なんだって…
しかし、誰も最初はそんなことが起きるとは予想していなかったんだから
だって、そんなノリじゃなかったんだぜ
大体、今だってこんなこと、一般的にはクレイジーだろ
だからやっかいなんだ。餌食にされた者にしかわからない巧妙なやり口なんだから
バレないかな…
なんだ、退けてんのか?
いや…そうじゃないけど…
いいんだよ、皆それぞれの事情がある。家族、子供がいるヤツは、計画から抜けろ…
ちょっと待ってくださいよ!じゃあ、オレみたいな子持は、加わる資格がないっていうんですか?それじゃ、あんまりだ!
そうですよ、俺ら、出来るところで一生懸命やってきてるんです。それでも彼奴に烙印を押され、貶められ…。今度はこっちでもつまはじきされたんじゃ…たまらないですよ。
わかるさ。それはココにいる誰もが同じだ。
でも、奥さんや子供さん、家族を巻き込んでいいとは、私も思えない。
そんな…。
ウチのは覚悟決めています!大丈夫ですよ、気丈だし、子供達だって、きっとわかってくれます。
いいのか?
はい。
彼奴だ…総て彼奴のせいだ…

それは、一見なんでもないことだった。
パーソナルコンピューターが、マイクロソフトの戦略に乗って爆発的に世の中に広まり、実質どこの家にもパソコンが家電のように設置されるようになった。
無邪気な市民は何も知らぬまま、コマーシャルで流される魅惑的な世界へと足を踏み入れていく。インターネットというものの本質よりも、そこでの便利さ、享楽への扉、華やかで楽しいイメージ、深層で孤立をしていく人々は、乾きを満たすフレーズに心を躍らせる。それらは、蜜だ。様々な虫を惹きつける甘い蜜。

彼奴のサイトに、一人また一人と、それぞれやってきた理由、タイミングは違う。
しかし、しばし掲示板に留まり、とりとめのない会話を交わしているウチに、
ふるい分けは行われていたのだった。
毎日のように画面上には、親父ギャクや、ブラック冗句、中には真面目な相談等も織り交ぜながらの書き込みが続く。ごくありがちな気のあった者同士のやりとり、通りがかった者の目にだけでなく、実際参加していた者も、それを疑うことはなかった。

しかし、ある日、参加者の書き込みが数件、なんのまえぶれも無く隔離された掲示板へと移動された。
移動された本人達も、また他の参加者達も、彼奴のいつものちょっとした遊びだと考えていた。そうして、その隔離掲示板にも、流れていく参加者が居た。特別の不都合がある訳ではなく、一つ別の掲示板が増えたという認識でいる者も少なからずいた。

それがここ数ヶ月、何かが変わりはじめた。
その掲示板に参加する者を彼奴は「ダメ人間」と呼んでいた。軽口であるので、誰も気にはしていなかった。その掲示板で、何か失敗談を書けば、「おーおまえもか」という生暖かなエールが送られる…その程度のはずだった。
ところが、いつからか、参加者の中の、ダメ人間とは到底思えない、社会的にも自立し貢献している人物までが、ぽつぽつと失敗やハズした行動をしはじめたのである。

え?あの人が?いや、ありえないでしょう、そんな…。
イヤ、本当らしいよぉ。
誰が言っていたんだ?
メールに書いてあったんだって…
そこで終わらないんだよ、それがさ。
ちょっと、その後、事故にあって、入院したって…マジなのか?
ま、まさか!
続きすぎですね。
まあ、そういう時期ってのもあるからな、人間。
あの…、そういえばこの間書いていた彼ですけれどね、今自宅療養中なんですよ。
ええっ!?

話は話を呼び、次第に誰もが何かおかしいと考え始めた。
考え始めたが、あいかわらず掲示板への書き込みは続いた。

おまえが、色々ハズしはじめたのって、いつからだ?
それがですね、あの掲示板に始めて書き込みをしてから、一ヶ月くらい後に腰痛で。
え、オレはさ、やっぱり一ヶ月くらいしてから、スピード違反の切符で、その後2週間して、車の駐禁で…
ああ、続いたよな…点数足りなくて免停したろ?
そうなんですよ、あんなこと、今思うと何やってんだって…。
私、思うんだけど…
何?
彼奴が、私たちから運を吸いあげているんじゃないかって。
ばーか。オカルトねたかよ。
だって…
んなこと言ってたら、キリねーじゃん。
…いや、ちょっとまてよ。
な、なんだよ、おまえまで。
最近、彼奴、やけに忙しがってねーか?
そういえば、仕事が忙しくて、困るとか…
彼奴が忙しくなりはじめた時期と、あそこに参加している連中にささいな不幸が起こり始めた時期…、なあ、重なってないか?

誰もが一瞬黙り込んだ。

ま、まさか…ね。

表向きは皆、いつもの他愛もない話題を書き込んでいた。
しかし、その裏では歯車が回り出し、綿密な行動計画がメーリングリストで
進んでいった。

明日。
ああ、明日。
いよいよ、だな。
これで、解放されるのか、俺たち。
そうだ、もう失敗談など書いて、ダメの連鎖を続けることはないんだ。
解放されるのね!

そして、夜が明けた。
彼奴はその日、地方から出てくるというネットの女友達に会いに、
みなとみらいへと出かけることになっていた。
待ち合わせ場所は、横浜美術館に続く並木道。
夕方になると、人通りもまばらとなる。

こねえなぁ…

車いすの男が一人、たばこに火をつけている。
麻痺のある体には、日が沈んでからの温度差は堪える。
たばこで暖をとるように、口にくわえたたばこに手をかざそうとしたその時
後ろから腕が伸び、男の首に巻き付く。火のついたたばこが路面に転がる。
それを踏み消し、吸い殻を拾い上げる人影。
華奢な手が白い布を男の鼻と口に押しつける。
男はさほどの抵抗をするまでもなく、意識を失った。
薄れていく意識の中で、男は振り返った。

あんな…。ごめんな、シゲさん…

待ち合わせた女の声と顔が、霧の彼方へとすいこまれた。

ゆっくりとしたスロープになっている並木道の向こうには
クリスマスの飾り付けがされた街並みが広がる。
さっきまで居た並木道の人影は無く、風が残していった落ち葉が数枚、
路面に張り付いている。

その後も、掲示板には相変わらずの失敗談や、親父ギャグが書き込まれ続け、
なにごともないかのような雑談が続いている。
ただ、ひとつ違うのは、そのサイトの運営者のコメントがなくなったこと。

相変わらず…の裏側では、とりとめもない詮索が続いていた。

で、彼奴の家族はまだ何も?
そうらしいわ
なんで?
わからん。
誰か、彼奴の家行ってみたら…
いや、それはまずい、罠かもしれない。
捜索願いくらい出すだろう、普通。
だよな…どうなってるんだ、彼奴の家?
出されたら、出されたで、ドキドキしちゃいますね。
その辺は、大丈夫なんだろうな。
まかせて、どうしたって証拠不十分。
その、根拠のない自信は、どこからくるんだ?
そんなこといったって、おまえ、どうにかできるのかよ。
いや…。
どっちにしても、ここまできたら、俺ら全員、同じ穴の狢なんだからな。
ははは、全然、ダメじゃん… ?!

画面を読む人々の視線が、キーボードを打つ手が、そして息までが一瞬止まる。

もしかすると…これも…彼奴の仕組んだことじゃないのか……。

その後も相変わらず、いやそれ以上の書き込みが掲示板にされ続けている。
新規の参加者も増え、賑わいをみせている。
誰一人、抜けられない。

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(19)- 首都陥落 -

by on 10月.28, 2006, under 05 バイク乗り達の詩(投稿)

 ?2002年頃

  - 首都陥落 -     
   行くべきか戻るべきか    (某賞受賞記念原稿BY こー)


 十一月初旬、他の報道機関が次々とアフガニスタンを撤退するなか、K通信ジャボルサラジ臨時支局では議論が続いていた。白く染まりつつある周囲の山々。冬の訪れ・・・、砂漠地帯に雪とは想像し難いが、四輪駆動車でさえ走行不能になるほど積もるという。

 スタッフは、僕を含めて四人。“いざ”という時に脱出しようにも、南側ルートはタリバン軍に閉ざされ、北側ルートも雪に閉ざされようとしていた。紛争地取材の鉄則である脱出ルートの確保も不可能な状態。反タリバン勢力「北部同盟」によるカブール制圧によって、南側ルートが開かなければ来春の雪解けを待つしかない。事実上、僕らは孤立しようとしていた。それでも、僕らの意見は一致していた。「通信社は最後まで残るべきだ、カブールを見るまでは」。当時、現地の報道陣の合い言葉は「いつカブールが落ちるか」だった。個人的には、他国の記者が残っているのに日本の記者が撤退出来るかという意地もあった。この戦争を真に“中立”に報じれる記者は日本人しかいない、という自負さえもあった。「米軍が今夜にも空爆開始」のフラッシュを世界で最も速く打電した先輩記者の功績で勢いづいていたことも確かだ。

 戦場取材は、その時、その場での瞬時の冷静な判断を求められる。判断を誤れば、最悪の結果は己の死である。「行くべきか戻るべきか」、今回の取材で、何度判断に迫られたことだろうか。

・前線で
 十一月十二日。早朝から助手が慌ただしい。反タリバン勢力「北部同盟」の司令官から「カブール進撃が始まる」という無線連絡が入ったという。とても信じられなかった。明日にも進撃するという情報に振り回されてばかりだったからだ。司令部に出かけ、前線へ行くという毎日。しかし、カブールの前線にはほとんど動きは見られなかった。

 取りあえず、最低限の機材を携行して司令部へ向かう。そこには、既に百人近くの兵士が集結していた。よく知った顔も見えた。RPG7、カラシニコフ突撃銃を担いだ完全武装の兵士たち。日ごろは愛嬌のある笑顔を見せる彼らも緊張の色を隠せない。そこら中に立ち上る熱気、異様な興奮状態、どうやら進撃開始は間違いないらしい。

 我を振り返って、己の装備の不完全さを呪った。発電機、ガソリン、食料なしでは、従軍取材を全うすることは難しい。寝袋なしでは、砂漠の夜を過ごすことも自殺行為だ。今から臨時支局に戻っても、約二時間のロスタイムが生まれる。一度部隊と離れたら合流するのは難しい。戻るべきか・・、雰囲気に飲まれながら冷静さを失いそうだった。その僕の頭上を米軍のB52戦略爆撃機が飛び交う。真っ青な空に白い航跡を描いて。太陽がじりじりと照りつける。喉の乾きを覚えた。

 そんな僕をよそに、兵士たちが車座になり中心に司令官が座った。目を閉じ口を真一文字にして。ざわめきは消え失せ、空気が張りつめる。彼は、ふーっと息を吐き、正面を見据えて言った、「誰もが死なないように、誰もが無事で帰ってこれるように部隊の安全を祈ろう」。聞こえるものは、風の音だけ。少年がその横に座り、コーランを歌い始めた。「アッラー アクバル・・」、変声期前の少年の高い澄み切った声が山並みに響く。一心不乱に祈る兵士たち。荒くれに見える彼らの繊細な一面を見たような気がした。その光景を見つめながら、胸が熱くなった。とても美しいものを見たような気がした。僕は、次第に冷静さを取り戻していった。コーランが終わると、兵士たちは雄叫びを上げながら立ち上がりトラックや戦車に乗り込む。顔見知りの兵士たちが、僕に握手を求めてきた。すっきりとした爽やかな表情だった。僕らも車に乗り込み後に続いた。

 部隊は、カブール方向へと向かった。数キロ進むと立ち止まり、ロケット砲をタリバン陣営に撃ち込んだかと思うと、また前進する。時折、タリバン陣営から撃ち出されるロケットが周囲に着弾する。しかし、兵士たちの顔には余裕さえ感じられた。周囲は地雷原。識別は不可能だ。前を行く戦車のキャタピラの跡を走行するように、助手に怒鳴り散らす。綱渡りをしているような気分、地雷を踏んだらばサヨウナラだ。道は悪く身体は座席に収まらず宙に浮いてしまうほど。パソコン、衛星電話など精密機器の無事を祈るばかり。しばらくして、荷台に積んだ機材をチェックしようと車を止めた。そばの木陰には、負傷した兵士たちが横たわっていた。顔中から汗を吹き出しうずくまっていた。周囲の兵士らは、気にも止めない、どころか苦しむうめき声をよそに談笑している者さえいる。司令官にうながされるまま、負傷した兵士の両足を抱え、がれきと泥の上を引きずり回す。悲痛な叫びが響いた。この場所に病院などあろうはずがない。血糊の跡が、地面に続いていた。


 闇の中、部隊はカブールまで十数キロ地点に迫った。辺りは静寂に包まれていた。ボソボソと話す兵士たちの声が響く。周囲から笑い声も聞こえ、安堵の空気が漂い始めた。今夜はここで一泊することになるのかと思った。焚き火を起こし、一服しようと煙草を取り出す。その時、親しかった司令官が走ってきて叫んだ、「ここを動くな」。目が闇にぎらぎらと光っていた。前方で、花火のような閃光が上がった。タリバンの待ち伏せ攻撃。半円状に陣形を取った彼らが、最後の反撃に出たのだった。

 撤退すべきか否か・・、このまま取材を続行すれば、戦闘シーンの撮影が出来るかもしれない。自しかし、リスクは余りにも大きい。待ち伏せするからには、地雷などの罠があることだろう。閃光はより輝きを増していく。前方での戦闘の激しさをうかがわせる。さらに、後退する兵士の姿が増えてきた。閃光は、徐々にこちらに迫ってくるように感じられた。リスクと効果を計りにかけ、自問自答を繰り返す。


―「地上戦を見れる戦争なんて、これが最初で最後のチャンスだぞ」
  確かにその通りだ。報道規制の厳しい現代では、このような機会はない。しかし、ロケット砲の撃ち合いというのは写真にならないのではないか。
―「ロバート・キャパのような決定的瞬間を撮るチャンスだ」
  いや、この真っ暗闇であのような写真を撮ることは不可能だ。キャパでも無理だ。
―「それでは、お前は逃げるのか」
  いや、俺の撮りたいものは、この程度の戦闘ではなく、首都陥落だ。


 目指すべきはカブールのはず、ここで危険を冒す必要はない。決心した僕は、態勢を立て直すために臨時支局にもどることを決めた。砂漠地帯を一台の車で走ること数時間。臨時支局にたどり着くや眠りに落ちた。

 夜半、ハッと目を覚ました。嫌な夢・・。負傷した自分が現れた。対人地雷にでもやられたのか、腰から下はなかった。外気にあたろうと部屋を出た。「あの負傷した兵士はどうなったのだろう」と考え、空を見上げた。米軍機らしい機体が飛び交っていた。病院はおろか、軍医さえもいないゲリラ戦、重傷はイコール死、を意味する。苦しみのたうちながら死ぬのはご免だ。どうせ死ぬなら一発の銃弾かミサイルで・・・。それで、そこらの炉端に埋めてくれりゃあいい。胸が苦しかった。胃液が逆流するのを感じた。社内では無茶する記者と評されるが、実はそれほど強くはない。嘔吐しながら考えた。明日も、あそこへ行かなくてはならないのか・・・と。


・首都陥落
 翌朝、ガーガーとなる無線に起こされる。「カブールが落ちた」。「北部同盟」の司令官からの連絡。「たった一日で!?」、半信半疑だったが機材を車に詰め込む。宮仕えである以上、危険を伴う取材には上司の指示を仰がなくてはならない。衛星電話は厳重な梱包の中。使える電話は、全て支局員が使用中だった。とにかくカブールへ向かうしかなかった。内心、上司への連絡不備の言い訳も出来たな、とも感じた。

 昨日までは通行不可能だった幹線道路を快調に走る。たった一日で、あちこちに築かれていたバリケードが除去されていた。道中、兵士を満載した戦車を何度も追い越す。路上に転がるタリバン兵たちの死体があった。死臭はない、命を絶って間もないのだろう。囲む群集が、「こいつらはアラブ人だ」と怒鳴り死体を蹴飛ばしていた。タリバンに外国人兵は多い。揶揄する意味で、死体の手には金が握らされていた。この内戦が、米軍がやってくる前から複雑な構造であることをうかがわせた。そもそも、近代では“純粋”な内戦などない。はるか昔から、アフガニスタンは他国の侵略を受け続けている。この戦争を反米、親米だけの立場で論じることは難しい。インターネットで読む今回の報道を読むにつけ、単純な二分論で語られることの多さに辟易したものだ。僕に出来ることは、自分の目で見たこと、耳で聞いたことを伝えるだけだ。

 車を走らせて約二時間。戦車や装甲車両が封鎖する地点にたどり着くと、そこは既にカブールだった。緊張感はない。中心部から様子を見ようと歩いてきた一般市民の姿があった。気が早い女性の中には、ブルカをめくって笑顔を見せる者さえいた。兵士によれば、市内中心部の戦闘は早朝に終わり、現在は治安回復に努めている、とのこと。しばらくは前進出来そうになかった。本社に連絡すべき・・何よりも一報を送らなくては、と衛星電話を組み立て記事の材料を送り込む。ブルカを脱いだ女性、市民が兵士に花輪を贈り歓談する様子・・・など。

 一段落して、外信部デスクが電話口に出た。「社はその場所から撤退せよと命令しています」、事務口調で言う。その瞬間、連絡したことを後悔した。状況判断するに危険な材料は皆無だった。しかし命令を聞いてしまった以上、後戻りせざるをえない。立場を逆にして考えれば、事実上判断を委ねられた以上、上司は「行くな」としか言い様がないのだ。“鉄砲玉”と評される一記者の“無謀な”行動に責任を取らされるのも理不尽である。僕に万一のこと(戦場では十に一かも)があれば、責任の所在が生じることは組織の掟である。歯ぎしりする僕に彼が言葉を続けた、「でも、最後は現場の判断なのですよ・・・・・・」。受話器の向こうで、彼が笑みを浮かべているような気がした。「行け」と言ってくれているのだ。僕の判断を尊重してくれているのだ、と嬉しくなった。彼も、覚悟の上でその言葉を吐いていることは十分に理解出来た。助手をうながし、心躍らせながらカブール中心部へと車を進めた。


 まずは、撮影機材を隠し車を走らせ、窓から様子をうかがう。通常通り営業する商店、街を行き交う女性や子供、何よりも人々の表情に明るさがあった。戦闘も激しくなかったのか、死体も数体しか見当たらない。数十分の安全確認を終え、もっとも人通りの激しい場所で車から降りた。物見高いアフガニスタン人のこと、たちまち百人以上の市民に囲まれる。質問を浴びせてきた。


?どこから来たのだ?
  「日本から来た記者だ」
?何をしているのだ?
  「取材している。北部同盟のカブール制圧を取材している」
?家族は何人いるのだ?


 質問は終わりそうにない。今度は、僕が質問した。
?あなたたちは「北部同盟」のカブール制圧を歓迎するのか?
  「もちろんだ。我々は彼らを歓迎する」
?しかし、かつて彼らによる略奪、強姦など蛮行もあった。それでもか?
  「それは確かにあった。しかし、タリバンよりはるかにマシだ」。皆が一斉にうなずく。
?タリバンよりも北部同盟を選ぶのか?
  「もちろんだ。自由こそが全てだ」。皆が笑った


 ガガガッという戦車のキャタピラが路面を削る音が聞こえてきた。北部同盟の戦車部隊が迫ってきたらしい。その音は、こちらに向かってきた。皆がそちらの方へ顔を向けた。僕もニコンを構える。兵士を満載した戦車の列が見えた。ファインダーの中で戦車が大きくなる。戸惑っているような兵士の顔があった。彼ら自身も不安を隠せないのだろう。さらに、戦車は迫ってきた。心臓の鼓動が高なる。砲塔の先端に、祝福を意味する花輪が見えた。突然、群集の大きな歓声があがった。冷やかすような口笛も聞こえた。その瞬間、ファインダーの中に紙ふぶきのようなものが舞った。呆然と見上げる兵士と民衆、手を振る民衆・・喜びと戸惑い・・混沌。僕が想定していた首都陥落のイメージがそこにあった。紙ふぶきに見えたものは紙幣だった。僕は、興奮で全身が震えていることを感じた。

 翌日、僕の仕事が世界中の新聞、雑誌の一面トップを飾ったことを知った。

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(18)駄文

by on 9月.28, 2006, under 05 バイク乗り達の詩(投稿)

?2002年頃

駄文   steve

雪が降ってきた。

いつも通りの冬だ。

今夜も例外にもれず忙しい一日だった。
会社の連中はこぞって、そそくさと退社した。
今日はクリスマス・イブなのである。

やるべき仕事が一段落し、
時計を見ると8時を回っていた。

「なんとか間に合うかな。」

戸締りをして会社の外に出ると、
飛び上がるほど寒い。
雪なんて、見るだけで寒いのに、
頬に降りかかろうものなら凍りつくほどだ。

いつもの最後の退社だが、
クリスマス・イブだからといって
格段と寂しさを覚えるわけではない。
なぜかと言えば、
この日はここ十数年、一人でいることの方が
多かったからだ。

もちろん一人じゃなかった時は、
おしゃれなレストランで食事をしたり、
かっこいいホテルを予約したりして、
楽しい時間を過ごしたこともあった。

だけど、なぜかこの日だけは
一人で過ごしてきたほうが圧倒的に多い。

そういう一人の年には何をしていたかというと、
その「何とか間に合う先」へと出向くのである。
全て木製の内装で、
温かみのある裸電球の照明。
程良い薄暗さだ。
歩くと木の床がゴスゴスと独特の音を立てる。
昼間は学生相手のランチやコーヒーを出す
喫茶店なのだが、
夜はまあ、良く言えばアーリーアメリカン調の
パブになる。

ここでは毎年、あえてクリスマス・イブの日に
ライブパーティーをするのだ。

まだそのパーティーに顔を出したことが
なかった時に、
マスターに一度訊いてみたことがある。

「クリスマス・イブの日にライブやっても客、
//来んでしょ?」
「ばか、それなりに賑わうんだよ。」
「なんか、一人で寂し?奴が
___一杯なんだろうなあ・・。」
「お前も同じようなもんだろう。」

よくよく訊いてみると、
その昔、沢山の彼女を持つマスターの
アリバイ作りの代物だったようである。
そのマスターも今や綺麗な奥さんの旦那で、
かわいい3人の子供達のパパだ。

ライブ自体は例年、大体10時頃から始まる。
それから朝方まで、気が向いたら演奏をし、
ビンゴゲームやヨタ話大会をやる。
カップルじゃない初回参加のものは
例外なくステージへ上げられ、
自分がこんな日にこんなところへ
来ている理由を、
どんなに自分が寂しい境遇にあるかを
強調して話をしなければならない。
毎年いる人や、初めての人、
一回しかこない人、
思い出したように来る人、カップル、独り者、
それぞれである。
3年位前だったか、
とても真面目そうな、
どう見ても高校生にしか見えない女の子が
一人で座っているのを見たことがある。
誰とも話をすることなく、
ものすごく興味深げに、
ライブでやっている大昔の古いロックに
見入っていた。
ところがその子の前には、
どう見てもお酒にしか見えない物が
置かれているのである。
そういうところには変にカタブツな
マスターが出したとは思えない。
それどころか誰かがその子に
飲ませているところを
マスターに見つかったならば、
大変なことになる。

「ちょ、ちょっと、き、君、それは、
___お、お、お、お酒じゃないのかね!」
マスターが暴れだすところを想像すると、
つい中年のオヤジみたいになってしまった。

「し?っ!!マスターには内緒だよ!」
「い、いかんよ、オジサンによこしなさい!」
「大丈夫だって!マスターの目の前で
___すりかえたんだから!」
「そ、そうかね。ははっ、、。」

訊くと彼女はベーシストで、演っていた曲を今度、
卒業ライブで演奏すると言う。
あれからその子は見かけないが、
うまくいっただろうか。

そういえば去年はハーレーに乗って、
はるばる100Kmも先からやって来た夫婦がいた。

「わたし、ハーレーって、
___あんまり好きじゃないのよねェ。」
「ばかいうな。
___バイク乗りは最後にここに行き着く。」

そう言いながらも夫人はしっかりと
ハーレールックである。
実はとても仲良さそうな夫婦に
話し掛けたくなった。

「今日はタンデムで?」

「そうなのよ。こんなに寒いのに。」
「車よりいいって言ったくせに。」
と旦那。

「あなたもバイク乗りなの?」
「ええ。まあ一応。」
「来年はあんなオジサン的なバイクの後ろじゃ
___なくて自分でドカティにまたがってくるわ。」
「頼もしいですね。」
「モンスターの900よ。色は赤ね。」

今年はあの夫人、ドカに乗って
やってくるであろうか。
なんだか楽しみになってきた。
ハーレーとドカが店の前に並べて
とめてある光景が目に浮かぶ。

今から急いで家に帰り、着替えを済ませて
バイクにまたがれば10時には店に着くだろう。

何とかライブには間に合いそうだ。

バス停まで大急ぎで走っていく。
あと3分でバスが着くはずだ。
あと少しでバス停だと言うところで、
見たことのあるような女性がなにやら
振りかざしている。
その女性は白い箱のようなものを頭の上へ
大きく持ち上げたと思うと、
ジュースの自動販売機にその箱を
ボカ?ンッと叩き付けた!

な、なんだ?
おだやかじゃないな。
ん?
こりゃ、ケーキじゃないか。
こんなことしたら中身、グシャグシャだ。

急いでいたにもかかわらず、
ちょっと日常的でない光景に立ち止まってしまった。
いやな予感がしながら、
つぶれたケーキの箱から、
恐る恐るその持ち主のほうへ
視線を移すと、、!

「何やってんの!?」
「・・・・・」

それは同じ会社の事務員の西川さんだった。

いやな予感というのは、
全く知らない人でない以外は、
そのまま通り過ぎていくことができないという、
常識的な予感だ。
西川さんの顔は、
ケーキの箱よりグシャグシャになっていた。

それから2時間、そのグシャグシャの顔した
西川さんの愚痴を延々と聞かされた。
彼の部屋に泊まりに行く予定の今日の夜、
急に彼の出張が決まったのだそうだ。

大泣き、大ワメキし、落ち着いたのか
それではごちそうさまと言い残し、
彼女は帰って行った。
家の近くのバス停に降り立った時、
すでに時間は11時近くになっていた。

今の時間から出掛ける気も失せてしまって、
ひとりで飲み直そうと思い、
それまで寄ったことのない、
小さな、
少しさびれた酒屋に立ち寄った。

ぐるりと見回したが、お気に入りの酒が
置いてない。
やっぱりこんなところには置いてないよなと
思いながら、
一応訊いて見る事にした。

「あのう、。」

「なんだね。」

「ボンベイ・サファイヤ、置いてますか?」

「あるよ。」                終

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