-悲しきは・・・- author:松戸

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-悲しきは・・・- author:松戸

深夜―――。

湾岸を西へ向かう一台のオートバイ。
横浜横須賀道路を逗子インターチェンジで降りる。
そのまま逗葉新道に入り、料金所の先を左折して三浦半島中央道路へ。
湘南国際村入り口の交差点を右折して、国道134号線へ。そのまま南下する。

葉山ハートセンターを過ぎると、いきなり右手に海が見えてくる。
そこは長者ヶ崎。
街頭に照らされた駐車スペースにオートバイを停め、エンジンを切ると、一瞬にして深夜の静寂につつまれる。そしてヘルメットを脱ぐ頃には、かすかに波の音が聞こえてくる。
駐車場から見下ろす海岸には、かがり火が灯っている。

オートバイから降りてガードレールに座った彼は、海岸のかがり火を静かに見つめた。
彼の他には、そこには誰もいない。
ただ深夜の静寂だけが、彼を包み込む。

「下に降りないの?」
どのくらい時間が経ったのだろうか、不意に懐かしい声がした。
彼の薄い唇が声に反応して少し開き、彼はゆっくりと声の方へ振り向く。
そこには、街灯に薄っすらと照らされた一人の髪の長い女性が立っていた。

「ああ・・・。ここでいい・・・」
女性は彼に並んで立ち、海岸を見下ろした。
彼は、女性の透き通るような横顔を見つめる。

「目が慣れてくると、薄っすらと海岸線が見えるね」
「ああ・・・そうだな」

彼の薄い唇が震える。
「ここに来れば・・・会えると思った・・・」

女性は暗闇の海を見つめたまま言った。
「幸せ・・・だった・・・」

彼の頬を涙が伝う。
「俺も・・・さ・・・・」

駐車場に一陣の風が吹き抜けた。
もうそこには女性の姿はなく、ただ、彼一人だけだった。
嘘のような静寂が解け、国道を走る車の音が聞こえはじめる。

彼はそのまま、一人その場に泣き崩れた。

                   The End