ヨコハマ・ベイ・パーク・ストーリー 第2話-5

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○36元町・ル・シュマン

マスターが新しく煎れたコーヒーを、ユキの前に出す。
ユキ、マスターに軽く会釈。

ユキ「よく双子と間違われるんですけど、ひとつ違いの姉妹なんです。私たち・・・」

ユキ「子供の頃に両親がひどく憎しみあって離婚して・・・結局、親権を争って、妹は母の元へ、私は父に引き取られることになりました」

ユキ「正直に言うと、母の元へ行く妹が羨ましかった・・・でも、そんなこと言えなかった。私もお母さんの方に行きたいなんて・・・」

ユキ「妹はそんな私の気持ちを知っていて、別れ別れになる寸前まで、2人で抱き合って泣いていました」

ユキ「それから父と母はそれぞれ再婚して、15年も音信不通だったんです、私たち姉妹・・・」

ユキ「父は私を溺愛していて・・・それが新しい継母には気に入らなかったんだと思います。家で出されるご飯が残り物だったり、小さなことでも酷く怒られたり・・・はじめは虐待だなんて思ってもいなかった・・・」

ユキ「継母からのいじめが明白になってくると、私は中華街の祖父母の元へ移され、母の元へ行った妹のことを羨むようになってしまいました・・・だから・・・」

チャゲ、片方の細い眉を上げる。

ユキ「妹から15年振りに連絡があったときも・・・末期のがんだと知らされたときも・・・」

うつむいたユキの目から、涙が握り締めた手の上に落ちてゆく・・・

ユキ「でも・・・ある日、車椅子のチャゲさんに出会って・・・もう、見て見ぬふりはやめようって思ったんです・・・」

チャゲ「ユキさん、このアキオも同じように悩んでいるんだよ」

ユキ「妹は・・・サキは、アキオくんに感謝していました・・・」

アキオ「!」

ユキ「辛くあたってしまったことを後悔しながらも・・・アキオくんには別の道を進んで欲しいと言っていました。だから・・・わざとアキオくんに嫌われるようなことを・・・」

M姐「それで闇金から借金を?・・・(ちょっと呆れ・・・)」

カーナシ「そんな~、そんな試し方ないやろ・・・(なんで関西弁?)」

チャゲ「結局最後は・・・アキオ自身が決めること・・・か」

全員がアキオを見る。

アキオ「俺は・・・俺は・・・俺は俺は俺は・・・」

アキオ「俺 は サ キ を 見 捨 て な い ! ! !」

がばっと立ち上がるアキオ。

アキオ「ユキさん、サキの居場所を教えてください!」

ユキ「サキは・・・未承認の抗がん剤治療を受けるために今日の飛行機でアメリカに・・・」

アキオ「!」

チャゲ「何時の飛行機よ!?」

ユキ「成田15時発のJALです」

壁の時計は、13時45分。

アキオ「俺、行きます!」

ダッとカウンターの隅に置いたヘルメットを取るアキオ。

カーナシ「ここから成田まで1時間じゃどう考えても無理だよ!」

チャゲ「いや・・・」

全員がチャゲを見る。

チャゲ「一人だけ、間に合わせられる奴がいる」

M姐、即座に携帯を取り出しダイヤル、すぐに繋がった!

M姐「山本!今どこ!!!」

 
○37 K3号狩場線

山本「お・は・ヨーーーーー!!!」

赤いZZ-R1400に乗って疾走している山本。ヘルメットのハンズフリーが聞こえるように若干速度をゆるめ、小さなスクリーンに伏せる。

 
○38 元町・ル・シュマン

M姐「今、狩場線!2分で来る!」

カーナシ「成田まで高速道で約100キロ。確かに、山本なら1時間・・・いや、30分で着くかも」

チャゲ「重要なのは死なずに着くこと。奴なら二人乗りでも確実だ」

ユキ「でも、そんな無茶な・・・」

チャゲ「確かに・・・でも元々100%の安全なんてない。アキオが自分のドカで走って行くリスクよりも確実」

店の外にズ太いインライン4のエキゾーストが響く。

カーナシ「来た!」

 
○39 元町・ル・シュマン 裏通り

山本「よぉぉ!アキオ久しぶりぃ~」

チャゲ、ヘルメットを被ったアキオの頭をチタンの杖でコンコンと叩く。

チャゲ「いいか?オマエもニーグリップだぞ!」

アキオうなずく。

カーナシ「生きて帰って来いよ!」

山本「はよ乗れ、アキオ。カーナシ、縁起悪いこというな!」

山本のZZ-R1400の後ろにアキオが跨る。

山本「ならいくでー!!!」

若干フロントを持ち上げたZZ-R1400が、猛々しく発進する。

Gベストの男「おお行ったぁ~!グースみたいだなぁ、山本」

M姐「あらいつの間に斎藤さん。それ、カーナシの時にも言ってなかった?」

カーナシ「ならいくでー!ってまさか奈良に向かってないよな?」

M姐「・・・カーナシ、おもしろーい」

カーナシ「そお?てへ~」

Gベストの男「アホか」

 
○40 某高速道路

アキオのモノローグ
ものすごい風圧。何キロ出てるのか分からない・・・とても前を見ていられない。
パッセンジャー・グリップを持つ手がすでに痺れ始めている・・・

ひたすら疾走する、二人乗りのZZ-R1400。

と、アキオの体に突然の圧倒的な減速Gが・・・

小刻みに前後タイヤがホイールロック・リリースを繰り返して停止する。

山本「事故や!」

山本の背中越しに始めて正面を見るアキオ。
そこには、道路を塞ぐ形に横倒しになっている数台のトレーラーが・・・

アキオ、呆然と見つめて・・・

 
scene 36-40:END

 

○40 某高速道路

山本「こりゃぁ・・・」

アキオ「・・・ここまでか」

明らかな落胆を見せるアキオ。
山本は鋭い目で、トレーラーの位置関係を見ている。
一番左端のクルマ運搬用のトレーラーから、車載タラップが地面へと下がっている。
数人の道路係員が慌しく動いている・・・

山本「いくで」

アキオ「え?」

山本「イチかバチか、バチコンか!」

山本「舌噛むなよ!アキオ!!!」

山本、ZZ-R1400を急発進させる。

道路係員「おい、やめろ!」

アキオを載せた山本のZZ-R1400は、クルマ運搬用のトレーラーへ真っ直ぐに向かった。
そして、車載タラップを駆け上り・・・飛んだ!!!

山本「ひ・や・ホーーーーー!!!」

道路を塞いでいたトレーラを飛び越えて向こう側へ着地すると、ぐわしゃん!!!というサスがフルボトムして腹打ちする音が響き、アンダーカウルの底が砕け散った。

山本「ひぇー!割れよった!」

アキオ「やったぁ!!!」

山本「見てみぃー!」

成田まであと20キロの看板。

アキオ「すごい!(間に合う!)」

山本「ひゃひゃひゃひゃぁー!!!」

 
○41 成田国際空港

国際線の出発側に横付けされるZZR-1400。

山本「うりゃ!到着」

アキオの腕時計、14:40!

アキオ「行ってきます!」

ヘルメットを脱ぎ捨て、エントランスへ駆け込むアキオ。

山本その背中見送って。

山本「行ってこい!」

 
○42 同・出発ロビー

アキオ「どこだ・・・」

電子掲示板からJALのゲートを探す。

アキオ「あった!19番ゲート」

アキオ全速力で走り出す。

 
○43 同・19番ゲート

出発を待つ人が意外に多く、一部はすでにゲート前に並んでいる。

アキオ「サキ・・・」

必死にサキを探すが、姿が見えない!

アキオがふと振り返るとそこに・・・

サキ「ア、アキオ・・・!」

アキオ「サキ・・・」

見つめあう二人・・・

 
○44 同・19番ゲート・ベンチ

アキオとサキがベンチに並んで座っている。

サキ「アキオ・・・ごめんね・・・」

アキオ「まったくだ。サキが突然いなくなって心配した。俺はあんな取立て屋くらいじゃへこたれない」

サキ「・・・ゴメン」

アキオ「アメリカで治療を受けてくるんだって?」

サキうなずく。

アキオ「向こうで一人でいるのか?」

サキ「ううん、お母さんと一緒・・・」

サキの目線のサキ、中年の優しそうな女性がお辞儀する。
アキオも軽く頭を下げる。

アキオ「そっか、いつ帰ってくるんだ?」

サキ「半年後・・・かな?」

アキオ「絶対に帰ってこいよ・・・待ってるから」

サキ、アキオ見てうなずく。瞳に涙。

ひしっ!とサキを抱きしめるアキオ・・・

 
scene 40-44:END

 

○45 成田国際空港

アキオがひとり空港から外に出てくる。
エントランス横に山本とボロボロになったZZ-R1400。

山本「会えたか!?」

アキオ、うなずき、ZZ-R1400見て。

アキオ「アンダーカウル、壊れてしまって・・・(すみません)」

山本、アキオの言葉にかぶせて、

山本「いーってことよ」

アキオ「でも、どうしてそこまで・・・(してくれるのか?)」

山本「俺ら、一期一会のバイク乗り・・・ってワケよ」

山本「乗りな!けーるぞぉ!」

ZZ-R1400のエンジン始動音が響き・・・・

 
- 1年後 -

 
○46 横浜某所・東屋・夜

チャゲがユキと親しく話している。ほかに、カーナシ、M姐、Gベストの男などおなじみのメンバーが歓談している。

山本「お・は・ヨーーーーー!!!」

カーナシ「お!久しぶりぃ~」

山本「およよよよ!?チャゲとユキちゃん、なんかエー感じやん?」

カーナシ「付き合ってるらしいぞ!」

山本「マジか!ユキちゃん、やめときぃ~」

ユキ、屈託の無い笑顔。

山本「ほんで、アキオとサキちゃんってその後どうなったんや?」

M姐「あの後、アキオもアメリカに行ったんだよ」

Gベストの男「若さだねぇ。もう、1年になるか」
と、チャゲを見る。

チャゲ「もう、二人とも帰ってきてるよ」

山本「マジ!?(ホンマか?)」

ユキ、山本にうなずく。

チャゲ「ほら、そこ!」

チャゲの視線の先に、アキオとサキの姿。

カーナシ「おおお!アキオ!サキちゃん!」

山本「よぉ~元気そうだな!二人とも!」

アキオ、ガツン!と山本と拳を合わせる。なんとなく人間が一回り大きくなった感じのアキオ。

皆にお辞儀するサキは、艶やかな黒髪を伸ばしている。

M姐「サキちゃん、ホントに元気そうだね!」

サキ「はい!・・・治っちゃいました!」

一同「えー!!!マジで!?」

アキオ「免疫と化学の複合療法の結果、何でも10000人にひとりくらい劇的に効果があることがあるみたいで、サキにはぴったりだったんです」

カーナシ「おお~!そりゃスゲエ!」

山本「ま、何でもいいだろ!治りゃ!」

チャゲ「マジで完治したの?」

アキオ「完治っていうかどうかは分からないんですけど、今のところ消失です!この通り元気に!」

見違えるような明るい笑顔のサキ。

M姐「キミがアメリカまで追いかけて行ったのが良かったんじゃない?」

カーナシ「愛の免疫療法かぁ・・・わかるなぁ~それ」

アキオ「みなさん、いろいろ・・・ありがとうございました!」
アキオとサキがペコリと頭を下げる。

山本「いーってことよ!」

カーナシ「俺ら一期一会の」

チャゲ「バイク乗り・・・だろ?」

笑い声が横浜の夜に響く・・・

 
第2話(完)

 

※このシナリオはフィクションであり、実在の人物、団体などとは一切関係ありません。