ヨコハマ・ベイ・パーク・ストーリー 第2話-5
2010年 1月 09日(土曜日) 22:52
○36元町・ル・シュマン
マスターが新しく煎れたコーヒーを、ユキの前に出す。
ユキ、マスターに軽く会釈。
ユキ「よく双子と間違われるんですけど、ひとつ違いの姉妹なんです。私たち・・・」
ユキ「子供の頃に両親がひどく憎しみあって離婚して・・・結局、親権を争って、妹は母の元へ、私は父に引き取られることになりました」
ユキ「正直に言うと、母の元へ行く妹が羨ましかった・・・でも、そんなこと言えなかった。私もお母さんの方に行きたいなんて・・・」
ユキ「妹はそんな私の気持ちを知っていて、別れ別れになる寸前まで、2人で抱き合って泣いていました」
ユキ「それから父と母はそれぞれ再婚して、15年も音信不通だったんです、私たち姉妹・・・」
ユキ「父は私を溺愛していて・・・それが新しい継母には気に入らなかったんだと思います。家で出されるご飯が残り物だったり、小さなことでも酷く怒られたり・・・はじめは虐待だなんて思ってもいなかった・・・」
ユキ「継母からのいじめが明白になってくると、私は中華街の祖父母の元へ移され、母の元へ行った妹のことを羨むようになってしまいました・・・だから・・・」
チャゲ、片方の細い眉を上げる。
ユキ「妹から15年振りに連絡があったときも・・・末期のがんだと知らされたときも・・・」
うつむいたユキの目から、涙が握り締めた手の上に落ちてゆく・・・
ユキ「でも・・・ある日、車椅子のチャゲさんに出会って・・・もう、見て見ぬふりはやめようって思ったんです・・・」
チャゲ「ユキさん、このアキオも同じように悩んでいるんだよ」
ユキ「妹は・・・サキは、アキオくんに感謝していました・・・」
アキオ「!」
ユキ「辛くあたってしまったことを後悔しながらも・・・アキオくんには別の道を進んで欲しいと言っていました。だから・・・わざとアキオくんに嫌われるようなことを・・・」
M姐「それで闇金から借金を?・・・(ちょっと呆れ・・・)」
カーナシ「そんな~、そんな試し方ないやろ・・・(なんで関西弁?)」
チャゲ「結局最後は・・・アキオ自身が決めること・・・か」
全員がアキオを見る。
アキオ「俺は・・・俺は・・・俺は俺は俺は・・・」
アキオ「俺 は サ キ を 見 捨 て な い ! ! !」
がばっと立ち上がるアキオ。
アキオ「ユキさん、サキの居場所を教えてください!」
ユキ「サキは・・・未承認の抗がん剤治療を受けるために今日の飛行機でアメリカに・・・」
アキオ「!」
チャゲ「何時の飛行機よ!?」
ユキ「成田15時発のJALです」
壁の時計は、13時45分。
アキオ「俺、行きます!」
ダッとカウンターの隅に置いたヘルメットを取るアキオ。
カーナシ「ここから成田まで1時間じゃどう考えても無理だよ!」
チャゲ「いや・・・」
全員がチャゲを見る。
チャゲ「一人だけ、間に合わせられる奴がいる」
M姐、即座に携帯を取り出しダイヤル、すぐに繋がった!
M姐「山本!今どこ!!!」
○37 K3号狩場線
山本「お・は・ヨーーーーー!!!」
赤いZZ-R1400に乗って疾走している山本。ヘルメットのハンズフリーが聞こえるように若干速度をゆるめ、小さなスクリーンに伏せる。
○38 元町・ル・シュマン
M姐「今、狩場線!2分で来る!」
カーナシ「成田まで高速道で約100キロ。確かに、山本なら1時間・・・いや、30分で着くかも」
チャゲ「重要なのは死なずに着くこと。奴なら二人乗りでも確実だ」
ユキ「でも、そんな無茶な・・・」
チャゲ「確かに・・・でも元々100%の安全なんてない。アキオが自分のドカで走って行くリスクよりも確実」
店の外にズ太いインライン4のエキゾーストが響く。
カーナシ「来た!」
○39 元町・ル・シュマン 裏通り
山本「よぉぉ!アキオ久しぶりぃ~」
チャゲ、ヘルメットを被ったアキオの頭をチタンの杖でコンコンと叩く。
チャゲ「いいか?オマエもニーグリップだぞ!」
アキオうなずく。
カーナシ「生きて帰って来いよ!」
山本「はよ乗れ、アキオ。カーナシ、縁起悪いこというな!」
山本のZZ-R1400の後ろにアキオが跨る。
山本「ならいくでー!!!」
若干フロントを持ち上げたZZ-R1400が、猛々しく発進する。
Gベストの男「おお行ったぁ~!グースみたいだなぁ、山本」
M姐「あらいつの間に斎藤さん。それ、カーナシの時にも言ってなかった?」
カーナシ「ならいくでー!ってまさか奈良に向かってないよな?」
M姐「・・・カーナシ、おもしろーい」
カーナシ「そお?てへ~」
Gベストの男「アホか」
○40 某高速道路
アキオのモノローグ
ものすごい風圧。何キロ出てるのか分からない・・・とても前を見ていられない。
パッセンジャー・グリップを持つ手がすでに痺れ始めている・・・
ひたすら疾走する、二人乗りのZZ-R1400。
と、アキオの体に突然の圧倒的な減速Gが・・・
小刻みに前後タイヤがホイールロック・リリースを繰り返して停止する。
山本「事故や!」
山本の背中越しに始めて正面を見るアキオ。
そこには、道路を塞ぐ形に横倒しになっている数台のトレーラーが・・・
アキオ、呆然と見つめて・・・
scene 36-40:END
○40 某高速道路
山本「こりゃぁ・・・」
アキオ「・・・ここまでか」
明らかな落胆を見せるアキオ。
山本は鋭い目で、トレーラーの位置関係を見ている。
一番左端のクルマ運搬用のトレーラーから、車載タラップが地面へと下がっている。
数人の道路係員が慌しく動いている・・・
山本「いくで」
アキオ「え?」
山本「イチかバチか、バチコンか!」
山本「舌噛むなよ!アキオ!!!」
山本、ZZ-R1400を急発進させる。
道路係員「おい、やめろ!」
アキオを載せた山本のZZ-R1400は、クルマ運搬用のトレーラーへ真っ直ぐに向かった。
そして、車載タラップを駆け上り・・・飛んだ!!!
山本「ひ・や・ホーーーーー!!!」
道路を塞いでいたトレーラを飛び越えて向こう側へ着地すると、ぐわしゃん!!!というサスがフルボトムして腹打ちする音が響き、アンダーカウルの底が砕け散った。
山本「ひぇー!割れよった!」
アキオ「やったぁ!!!」
山本「見てみぃー!」
成田まであと20キロの看板。
アキオ「すごい!(間に合う!)」
山本「ひゃひゃひゃひゃぁー!!!」
○41 成田国際空港
国際線の出発側に横付けされるZZR-1400。
山本「うりゃ!到着」
アキオの腕時計、14:40!
アキオ「行ってきます!」
ヘルメットを脱ぎ捨て、エントランスへ駆け込むアキオ。
山本その背中見送って。
山本「行ってこい!」
○42 同・出発ロビー
アキオ「どこだ・・・」
電子掲示板からJALのゲートを探す。
アキオ「あった!19番ゲート」
アキオ全速力で走り出す。
○43 同・19番ゲート
出発を待つ人が意外に多く、一部はすでにゲート前に並んでいる。
アキオ「サキ・・・」
必死にサキを探すが、姿が見えない!
アキオがふと振り返るとそこに・・・
サキ「ア、アキオ・・・!」
アキオ「サキ・・・」
見つめあう二人・・・
○44 同・19番ゲート・ベンチ
アキオとサキがベンチに並んで座っている。
サキ「アキオ・・・ごめんね・・・」
アキオ「まったくだ。サキが突然いなくなって心配した。俺はあんな取立て屋くらいじゃへこたれない」
サキ「・・・ゴメン」
アキオ「アメリカで治療を受けてくるんだって?」
サキうなずく。
アキオ「向こうで一人でいるのか?」
サキ「ううん、お母さんと一緒・・・」
サキの目線のサキ、中年の優しそうな女性がお辞儀する。
アキオも軽く頭を下げる。
アキオ「そっか、いつ帰ってくるんだ?」
サキ「半年後・・・かな?」
アキオ「絶対に帰ってこいよ・・・待ってるから」
サキ、アキオ見てうなずく。瞳に涙。
ひしっ!とサキを抱きしめるアキオ・・・
scene 40-44:END
○45 成田国際空港
アキオがひとり空港から外に出てくる。
エントランス横に山本とボロボロになったZZ-R1400。
山本「会えたか!?」
アキオ、うなずき、ZZ-R1400見て。
アキオ「アンダーカウル、壊れてしまって・・・(すみません)」
山本、アキオの言葉にかぶせて、
山本「いーってことよ」
アキオ「でも、どうしてそこまで・・・(してくれるのか?)」
山本「俺ら、一期一会のバイク乗り・・・ってワケよ」
山本「乗りな!けーるぞぉ!」
ZZ-R1400のエンジン始動音が響き・・・・
- 1年後 -
○46 横浜某所・東屋・夜
チャゲがユキと親しく話している。ほかに、カーナシ、M姐、Gベストの男などおなじみのメンバーが歓談している。
山本「お・は・ヨーーーーー!!!」
カーナシ「お!久しぶりぃ~」
山本「およよよよ!?チャゲとユキちゃん、なんかエー感じやん?」
カーナシ「付き合ってるらしいぞ!」
山本「マジか!ユキちゃん、やめときぃ~」
ユキ、屈託の無い笑顔。
山本「ほんで、アキオとサキちゃんってその後どうなったんや?」
M姐「あの後、アキオもアメリカに行ったんだよ」
Gベストの男「若さだねぇ。もう、1年になるか」
と、チャゲを見る。
チャゲ「もう、二人とも帰ってきてるよ」
山本「マジ!?(ホンマか?)」
ユキ、山本にうなずく。
チャゲ「ほら、そこ!」
チャゲの視線の先に、アキオとサキの姿。
カーナシ「おおお!アキオ!サキちゃん!」
山本「よぉ~元気そうだな!二人とも!」
アキオ、ガツン!と山本と拳を合わせる。なんとなく人間が一回り大きくなった感じのアキオ。
皆にお辞儀するサキは、艶やかな黒髪を伸ばしている。
M姐「サキちゃん、ホントに元気そうだね!」
サキ「はい!・・・治っちゃいました!」
一同「えー!!!マジで!?」
アキオ「免疫と化学の複合療法の結果、何でも10000人にひとりくらい劇的に効果があることがあるみたいで、サキにはぴったりだったんです」
カーナシ「おお~!そりゃスゲエ!」
山本「ま、何でもいいだろ!治りゃ!」
チャゲ「マジで完治したの?」
アキオ「完治っていうかどうかは分からないんですけど、今のところ消失です!この通り元気に!」
見違えるような明るい笑顔のサキ。
M姐「キミがアメリカまで追いかけて行ったのが良かったんじゃない?」
カーナシ「愛の免疫療法かぁ・・・わかるなぁ~それ」
アキオ「みなさん、いろいろ・・・ありがとうございました!」
アキオとサキがペコリと頭を下げる。
山本「いーってことよ!」
カーナシ「俺ら一期一会の」
チャゲ「バイク乗り・・・だろ?」
笑い声が横浜の夜に響く・・・
第2話(完)
※このシナリオはフィクションであり、実在の人物、団体などとは一切関係ありません。
