大戦の果ての山野に ある元帝国陸軍兵士の覚え書き

 

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あとがき


 日本はアジアの一国であり日本民族は東アジアの一民族である。この事実を私どもは知識としては心得ている。しかしこれが意識の上で明確にされるのは日本の国土を離れ他の国土国民に接したときである。殊に他の東アジア民族固有の土地を訪れ、その地の人々に接して民族的文化的近似性を体験しまた歴史的変遷の重みを感得した場合にこれを意識することが多いであろう。

 私も青年時代に、親や弟妹達とともに朝鮮に在住し生活することによって、日本民族の一人として東アジアにおける日本を意識し、国のありかたや民族の交流について私なりの抱負を育くまれて来た。そして共に学ぶ日本、朝鮮の学友とともに、民族間の諸問題にまつわる苦悩を咀みしめ、その適切な解決への模索を続けて来た。

 昭和二十年(一九四五年)に第二次大戦が終り、朝鮮は大韓民国およぴ朝鮮民主主義人民共和国として日本の領有支配から独立した。

 この「遠い日の東アジアで」と題する自分史的記録は、戦後五十年を経た今日、五十年以前の私の青年時代の生活体験を回想して記述したものである。ささやかな私のこの記録を通じて、朝鮮領有期の朝鮮における日朝両民族交流の状況の一端をありのままに知ってもらいたい。それとともに、今後の東アジア特に日本民族と朝鮮民族との関係を思考する場合の素材として、この記録が幾分でも役立つことがあればと願ってもいる。

 この記録をまとめるに当って、たびたび貴重なご意見をいただき激励して呉れた学友、大林正也兄並びに森本武志兄に感謝するとともに、本書の編集、印刷、製本全般にわたってご懇切な助言をたまわった大成印刷の福田晋氏にたいし厚くお礼申し上げる。また原稿の整理、浄書について昨年来随時パソコンを駆使してくださった岩崎博子氏、綿密な校正をご協力くださった太田富美子氏に改めて感謝を捧げる。

 私の自分史としての記述内容に掲げさせていただいた方々は殆ど実名である。一部仮名にさせていただいた方々もあるのでご諒承をお願いする。

 昭和五十五年(一九八〇年)に「異境の道に」と題する自分史的歌集を編集したが、その後その内容の一部を「大戦の果ての山野に」と題する記録文集にとりまとめた(平成四年・一九九一年)。このたぴの「遠い日の東アジアで」と題する記録文集も同じ趣旨で記述したものである。
 ここに掲げさせていただいた方々のうち、既に逝去された方々は過半数を越えている。稿を終えるにあたって謹んでご冥福をお祈りする。


                              中 村 卯 一

 

 

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