加速装置

2010年 3月 13日(土曜日) 20:03

体育の時間が憂鬱だった。

身体が小さく、弱く、風邪もしょっちゅうひくし、扁桃腺を腫らして学校を休むときが多い僕。球技も苦手だし、走るのもとても遅い。
幼稚園の時のかけっこから、小学生になり50m走、100m走といつもビリ。

好きなことと言えば部屋の日の当たるところに寝転がって本を読むこと。遊びに行くときは画用紙を持ち、そのときの情景を描いていた。

身体を動かすのはとても好きで、典型的なインドア…、というわけではないけど、かなりの運動音痴だから、体育の時間はいつもクラスのみんなに笑われる。
小学校の高学年の頃、テレビでサイボーグ009が放送された。
その中でサイボーグ009が奥歯を噛んで「加速そーち!」と言うシーンがあった。当時のクラスのガキどもの多くが真似をしていた。僕も真似をして走った。

加速装置が本当にあるかのように、奥歯を噛み、自分が走るのが速くなったかのように想いを持って走り出す。

「加速そーち!」

それまで走ることがつまらなかったのが、その頃からなぜか楽しくなった。
学校からの下校道。川沿いの道を走る。意識して一歩を大きく大きくと踏み出す。
そして強く、強くと地面を蹴る。速く速く、力強く地面を蹴って進む。

息が切れる。

「ぜえぜえぜえ」

呼吸が整うのを待ってもう一度強く、強く、大きく、早く。
前へ、前へ!

そうして毎日走っているうちに身体も強く、大きくなっていった。

秋。運動会が近づき、クラス対抗リレーの選手を選ぶ。
選び方は単純明快。校庭で走って速いヤツを選ぶ。男子3名、女子3名。
僕はもちろん選ばれるなんてあり得ないポジション。
クラスの誰もが僕が選ばれるなんてことは考えもしない、言わば、眼中にない状態。
それでも選考は全員が走らなくてはならない。

僕が走る番がやってきた。

「よーい!」
「ドン!」

いいスタートが切れた。スタートしてすぐに僕は心の中で「加速そーち」と力を込め、強く地面を蹴り出す。
強く、強く、速く、速く…。もっと強く、もっとストライドを大きく。もっと力を込めて!!!

誰もがあり得ないことだと思った。
僕自身が一番あり得ないことだと思った。
その年の運動会。僕はクラス対抗リレーに出場した。
そして僕のクラスは優勝した。

それから中学、高校。
上には上がいて、学校で一番にはなれたことはないけど、常にクラスで1?2番にはいた。
さすがに心の中で「加速そーち」と唱えなくなったけど、それでも 強く、強く、早く、早く、大きく、大きく と意識して走る。

今も同じく

強く、強く、早く、早く、大きく、大きく

そして 遠く、遠く、どこまでも大きく、遠く!

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