クロッキー

※多少のエロあり。嫌いな方は遠慮願います。

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クロッキー帳を開き、2Bの鉛筆を手に取る。
ほんの少し斜め後ろからの横顔の輪郭を描いていく。
少し茶色い髪をかき上げたときに、首から耳のラインを描いていく。
長いまつげ。茶色い瞳は透明感を持たせて描いていく。
??中学1年 1学期終業式間近

着慣れない制服に身を包んだ小学校からの延長のような顔から、中学校生活に慣れた顔へと変わったクラスメート。当初の緊張感はなくなり、クラスは全体に和気藹々としている。
和気藹々としていながらも何となくいくつかのグループがあった。
生徒会役員をしているヤツを中心とした優等生グループと、香織を中心とした不良女子グループ。この2つが明確な形でグループを作っていた。

俺??タカシ
クラスのほとんどの連中と仲は悪くない。仲は悪くはないけど、かといって特に積極的にも喋らず、割とマイペースに日々を過ごしていた。
中学1年の自分が持っている漠然とした思いの中に、将来は絵を描く仕事に就きたい…、と思う感情が強くあり、時間さえあればクロッキー帳に向けて鉛筆を走らせていた。
クラスの連中と喋ったり、廊下で鬼ごっこをしたり、丸めた雑巾をボールに見立てて友達らに投げつけて騒いでいるのなら、そういう光景を絵を描いていたいという思いがあった。

そんな中で、優等生グループと、不良女子グループとは、そのどちらとも仲良くやっていて、明らかに溝がある優等生グループと、不良女子グループとの間のメッセンジャーのような役割をしていた。
??2学期へと

とてつもなく長く感じられた暑い暑い夏休みも過ごしてしまえばあっという間に過ぎ去り、2学期の始業式が終わり、クラスでは席替えが行われた。
番号を書いた紙を箱に入れ、それを引いて2学期からの座席を決める。僕はクラスを見渡せる一番後ろの席になり、机を持ち席を後ろへと移動すると左隣に香織がやってきた。

「よお」と俺

香織は長身でスリム。しかも美人。
ちょっとツッパっていて、中学生活が始まった1学期早々に、同じようにツッパっている女子を数人仲間に連れ込みグループを作っていた姉御。

「冬まで隣だね。タカシが隣で良かった」と香織

普段突っ張っているくせにかわいらしい挨拶をしてくる。
授業中。俺は何となく授業を聞きながら、ノートを取るでもなく、
一番後ろの席からクラスの様子をスケッチする。
1学期は窓際だったので窓から見える風景を描いていた。窓から外を見ると校庭の向こうに赤い電車が見える。都会と海辺とを向かうその電車が都会の空気、海辺の空気と運んでいく。そんな光景を描く。目に見える光景、あるときは思いを馳せる都会の光景、また、海辺の光景。

2学期になってからは一番後ろの席から授業の様子をスケッチする。
脇に汗を掻きながら黒板に公式や数字を埋めていく数学の先生。大きなバストを揺らしながら大袈裟なアクションで語りかける英語のティーチャー。
授業を聞く気もなく机の下で漫画を読む2つ前の列のクラスメート。背中に透け出るブラのラインが気になる学級委員の後ろ姿。
そんな姿を描いていく。

コロコロコロ

机の上に小さく折りたたまれたノートの切れ端が転がった。
香織の方を見ると目配せで読めと合図している。
小さく折りたたまれた手紙を開くと、そこにはとても綺麗な字で

「教科書見せて」

と書いてあった。どうやら教科書を持ってないらしい。
いつも机の中に置きっぱなししているはずだから、他のクラスの誰かに貸してそのままになっているのだろうか。

机を少し左へ寄せ、香織のそばに寄る。
机の一番左側に教科書を置き、香織に見えるようにして、「今、ここだよ」と指で教科書の一文を指す。

「あ・り・が・と・う」

と香織のくちびるが動く。
僕は授業に半分だけ意識を持っていきながらもクロッキー帳への鉛筆を走らせる。

香織が指で俺をつつく。そして香織は自分のノートを右に寄せ、
目線で読めと合図する。

「タカシって彼女いるの?」綺麗な字でそう書いてある。

俺は自分のノートの片隅に

「いないよ」と書く。

それからしばらく、そんな些細なやりとりが始まった。
ノートに切れ端の手紙であったり、お互いのノートや教科書の隅にメモ書きされたメッセージを覗き込んだりした。
香織と俺は別々の小学校だったため、お互いの小学校の時のことを話したり、クラスの誰が誰と付き合っているとか、誰それは気に入らないとかそんな下世話な話もした。

ある時、香織からいつものようにノートの切れ端が俺の机に転がってきた。

「タカシって、オナニーするの?」

唐突すぎるその一言に心臓が大きく動き出す。動揺を悟られないように

「バーカ」と答える。

「ちゃんと答えろよ」「ちゃんと答えないと痛い思いするぞ」
香織はしつこく追求してくる。

心臓の音が聞かれてしまいそうだ。ワイシャツの上からでも心臓が大きく上下するのが分かってしまうんじゃないかというくらい大きな鼓動をする。

小さく息を吐き出し

「するよ」

男らしくそう答えてやった。

「香織はオナニーするのかよ?」

心なしか顔を赤らめたあと、眉間にしわを少し寄せて言う。

「バーカ、タカシと違って相手がいるんだよ」

心臓の鼓動はさらに早まる。ドキドキドキドキ。
(香織はやっぱしちゃってるのか…。)

それからしばらく経った日。

「タカシさ、男の子のチンチンってどうなってるの?」

!?
またも唐突すぎるその一言にちょっとした疑問を投げかける。

「香織。なんでそんなこと聞くんだよ。相手いるんじゃなかったのかよ。
 さては…、本当は処女だろ?」

と疑問を投げかけた。内心は怒らせやしないかとドキドキしていた。

「ちげーよ。タカシのがどうなってるか気になっただけだよ。
 これ以上へんなこと言うと恐いぞ!」

そう返ってきた。

香織の方を見て、声を出さずに口を動かし
「え に か い て や ろ う か」と聞いてみる。
返事を待たずにノート代わりにしているクロッキー帳を一枚破る。

俺はクロッキー帳に絵を描いた。
さささっと普通の状態のを出来るだけリアルに描いて香織に送った。
横目で香織を見る。香織はシャーペンを手に取ると

「タカシのチンチン皮被り?♪」

と書いて寄越した。そのとき皮が剥けることは知っていたけど、皮が被っていていけないとは思っていなかったし、その当時、大きくなっても先がちょろっと出るくらいだった。
ちょっと正直に描きすぎた。

「うっせー」

からかわれたことに恥ずかしくなりクロッキー帳に大きく文字を書き、口を動かす。

放課後、いつもなら掃除をばっくれてしまう香織が残っている。
夏美、そして別のクラスの由美子もその場にいて、他に何人か、香織について回っている女子達もいる。

「タカシ。ちょっとこっち来て」
夏美はそう言うと俺の腕を掴んで、女子トイレへ引っ張り込む。

女子トイレで香織や夏美、由美子に囲まれる。

「タカシは皮剥けてないのかよ」
「大きくなっても剥けてないんだろー」
「そうだ、剥けてないんだろ」

と馬鹿にした笑いをしながら香織と由美子が交互に言う。

「風呂に入ったらちゃんと剥いて洗えよ」
「なんなら皮剥いてやろうか?」

「ギャハハハハ」

取り巻きの下品な笑い声が女子トイレに響く。
香織が俺の腕を捕り女子トイレの個室に引きずり込もうとする。

「ここで私たちが剥いてやるって言ってるだろ?」

「ちょ、ちょ、ちょっと待って」
「今日、帰って自分でするから」

「ったくー、仕方ねーなー。明日、ちゃんと報告しろよー」
「返事しないと無理矢理するぞ」

「ギャハハハハ」

周囲で夏美と由美子が笑う。

「ちょ、ちょ、ちょっと待って」
「明日、明日、報告するから許せ」

「ギャハハハハ」「タカシ、逃げてったよー」

その日、俺は家で皮を剥いてみた。
勃起した状態でそーっと皮を引き下ろす。意外と簡単に剥ける。
そっと触ってみる。「あう」強い刺激が走る。
その夜には風呂でも皮を剥いてみる。
シャワーをあて、その刺激に小さく声を上げる「うっ」
少し大人になった気分で、強い刺激を我慢してシャワーを当て手で触ってみた。
そして香織の言葉を想いながら射精した。
翌日、いつものように香織から脇腹をつつかれて、
ノートを見ろという目配せに香織のノートの片隅を覗き込む。

「どうだった?」

「なにが?」

「わかってて聞き返すなよ」

「じゃあ、また絵に描くよ」
俺はささっとノートに描く。そして香織に見せる。

「見栄張ってないか?」
「どう考えても見栄張ってるだろ?」

「張ってねーよ」

「ふーん」

俺は香織が素っ気なく「ふーん」と返事してくれたことに内心ホッとした。

その日の帰り、下駄箱で夏美が声をかける。
「タカシ!」「一緒に帰ろ」

「夏美と?」「だって帰る方向違うじゃねーかよ」

「いいでしょ?ね、送ってよ」

靴を履き替えると、香織や由美子達に声をかけられる。
「タカシぃー、夏美と帰るんだろー。私たちとも一緒帰ろうぜー」

「え、え、え」「やられた」

結局、香織、夏美、由美子、あと2?3人くらいでいつもの帰り道とは正反対の夏美の家へと歩いて行った。
夏美の家まで来て

「じゃあ、俺、帰るから。じゃあね」
と顔を引きつらせて挨拶すると、

「まさか帰れるとなんて思ってないよねー」
と言われる。結局、夏美の家へと寄らされる。

「夏美の家、夜にならないと両親帰ってこないから」

軽く嫌な予感がするも、どこか他人事のように考えていた。

「ねぇ、タカシ」

他人事はすぐに自分のことへと変わる。

「見せてよ」

「な、な、なにを」

「アレに決まってるじゃない。アレ」

「アレってなんだよ」
声がひっくり返りそうになりながら答える。

「分かってるのに分からない振りするって良くないなぁ」

夏美や由美子達に手足を押さえられる。

「まって、まって、ま」

仰向けに倒され、手足を押さえつけられる。
そして香織が身体の上に乗りしゃがみ込む。
香織に上から見下される。綺麗な髪。整った顔立ち。時々冷たい瞳になる目が笑う。
ほんの数秒の頭が白くなる時間に意識が遠のきながらすぐに現実に戻る。

「見せてくれるよね?」

「無理。ダメ。ヤダ。無理。やだやだ、勘弁して」

誰かの手がベルトを外し、学生ズボンのファスナーを下げようとしている。
こんな時、5?6人の女子の前には無力であることを思い知る。
黄色い嬌声とも、ただの下品な笑いとも付かない笑い声の中で、
学生ズボンと下着をおろされる。

「もう大きくしているじゃないか」
「タカシはエロイことばかり考えてるんだろ」
「今は香織に乗られて大きくしちゃったの?」
「ギャハハハハ」

「タカシ、オナニーしてみろよ」
「手を押さえられてたらオナニーできないねー」
「あたしらがしごいてあげるよ」

上に跨って乗っていた香織が向きを逆にし、お尻をこちらへ向ける。
香織は長いスカートの裾をめくりあげると、プリーツの多いスカートはひらりと舞いながら俺の顔ぱさっと被さる。埃っぽいニオイがする。

胸の上に香織の尻が乗る。
スリムな香織と言えども胸の上に体重がかかったら重くてしょうがない。
「重い、重いってば」
その声に、香織はきっと身体を前に傾げたのだろう。
お尻が少し持ち上がり、かかっていた重さが抜ける。
そしてすぐにお尻は段々顔の方へと近づいてくる。
洗濯することが少ない制服のスカートの埃くささと、
湿度の高い饐えたようなニオイがする。

スカートの中は別の世界のように感じられる。
スカートの外は遠くで声が聞こえてくる感じがする。とても遠いところのようだ。

「これって大きいのかな、小さいのかな」
「アタシのお父さんのはもっと大きかったよ」
「引っ張ったら皮剥けたー」
「ギャハハハハ」
「こんなのはいらなーい」
「ちょっとー、すごい堅いよ」
「びくびくいってるー」

スカートの外はすべて遠いところのこと。

むぎゅ。鼻先、口元にやわらかいものが押しつけられる。むぎゅぎゅ。
下着越しに押しつけられる。押しつけられてはにゅるっにゅるっと前後に動かされる。

「あん」

「香織。ずるいー。タカシに押しつけてるでしょー」

ヤバイ、出ちゃいそう。
「だめ、でちゃう。まって、まって」

「汚いもの出すなよー」

「だめ、でちゃう。イクっ」

いつまでもキリがないくらい射精し続けた気がした。
急に目の前が明るくなり、顔にかかっていた重さがなくなり、
手足を押さえつけられていた力も抜かれた。

香織、夏美、由美子。あと他の女子達。
さっきまでの下品な笑いがなくなり。顔を赤らめている。

「タカシ。ゴメン」

しばしの沈黙の時間が流れる。

「うん。いいよ」

「いけない、もうじきお母さん帰って来ちゃう」と夏美。

翌日からまた普通の日常が始まった。香織は相変わらずエッチなことを聞いてくるし、
俺も変わらず嫌な顔をしながらも答えるという感じ。
それから秋はどんどん深まり、冬の終わりまでの間に何度か、夏美の家に行って、
エッチな自習は行われた。

そして、ちょっと強引な流れで香織と由美子とセックスをした。
そのときは他の取り巻きがおらず、香織、夏美、由美子。そして俺の4人だけだった。
夏美の部屋でエッチな話をして、触りあっているうちに艶めかしい気分にっていった。

艶めかしい気分が最大限に達する少し前になって夏美が「わたし、用があるからちょっと出てくるね」と言って部屋から出て行った。
玄関の閉まる音が合図になるように、香織がくちびるを重ねてきて、舌を絡めてきた。
ねちゃっねちゃっと舌を絡ませて唇を離す。そして由美子が唇を重ねてくる。そして香織と由美子にリードされるように童貞を失った。
最初が複数だったことはちょっと特殊かもしれないけど、流れからすると当然の流れだった。

??1年が終わり2年へと。

2年になってクラス替えが行われた。
香織とは違うクラスになってしまい、
今まで別のクラスだった由美子と同じクラスになった。

「香織と離れちゃったね」と由美子。

「うん。香織がいないとなんか妙な感じがするよ」
「ところで…、夏美は何組になったの?」

「タカシ、聞いてないの?」

「なにが?」

「夏美は春休みの間に引っ越したのよ」
「隣の市だからそんな遠いところではないみたいだけど、
 通えないから転校したの」

「え?聞いてないぞ」

「やだー、知ってるとばっかり思っていた」
「詳しい場所は言ってくれなかったのよね。香織も詳しく知らないと思うわ」
「夏美はお父さんの仕事の都合で引越が多いのよ。
 その前は小学校の6年の時にどこだったか離れた県から引っ越してきたのよ」

…なんで言ってくれなかったんだよ。
それから2ヶ月くらいして、今度は俺が引っ越すことになった。
家庭の事情で急遽決まって、急遽引っ越すことになった。
ここからはそう遠いところではないものの、通うには1時間半はかかってしまうので、
学区外通学も認められず転校を余儀なくされた。

この中学も今日で最後という日。香織から声をかけられた。

「タカシ」

「香織…」

「っくしょー」

「なにがちくしょーなんだよ」

「…んでもねーよ」
「タカシ。いろいろごめんな。またいろいろありがとうな」
「……きだった…」

 「聞こえねーよ」

「二度も言えるかよ。バーカ」

「そうだ。香織にこれあげるよ」
カバンからクロッキー帳を取り出し、後ろの方から何枚かページをめくる。
絵が描かれた目当ての一枚の後ろに鉛筆で走り書きをする。

?好きと言ってくれてありがとう。
 もしも、もう少し大人だったら好きと言えたかもしれない。
 俺は香織と違ってまだガキだから、まだ好きってピンと来ない。
 ごめんな??

そう書いて、香織の横顔が描いてある一枚を手渡す。
1年の3学期になっての席替えのあと、香織と席が少し離れたときに、
その横顔をスケッチしていた。

「なんだよ。最後にきたねーじゃねーか。
 タカシの馬鹿馬鹿馬鹿。早くくたばれっちまえ。早く行けよ。じゃーなー」

??それから3年 

俺は高校生になりオートバイに乗るようになっていた。
クロッキー帳とペンケースを鞄に入れて、タンデムシートへと括り付ける。
広くなった行動半径に、描く幅も広くなっていった。

海岸沿いをオートバイで走る。
夏の白い陽射しを浴びてオートバイを走らせる。
アスファルトの無効の光景がゆがんで見える。

「あちー。コンビニ寄ってなんか飲み物でも買うかな」

コンビニでアイスと飲み物を物色して、商品をレジカウンターへと持っていく。

「260円になります。…あっ」

「あっ」
「夏美…」

偶然の再会をした。

数秒の無言のあと口を開いた。

「何時にアルバイト終わるの?」「じゃあ、その頃にまた来るから」
「いい?」「あとで来るから。待っててよ」

一度家に帰り、水のシャワーを浴びて高鳴る鼓動を抑える。

夜を待ってまたそのコンビニに行く。

「久しぶりだな。元気だったか?」
「夏美が引っ越して、そのあと俺も引っ越したんだ」
「でも…、まさか、こんな近くにいるなんて思わなかったよ」

夜の海岸へ降りて、砂浜へ座り、波の音を聞きながら3年間のことを話す。
離れてしまった3年間のことを話し終わると、
並んで座っていた距離が一気に縮まった気がした。
それは気だけではなく、お互いの手が触れ、そして俺は夏美に肩に腕を回した。
3年前の受け身の俺ではなかった。俺から夏美を引き寄せた。

「夏美…。あのとき…。夏美が自分の部屋から出て行ったとき…。
 なんであのとき、部屋から出て行ったの?」

夏美からは考えてもみなかった答えが返ってきた。

「香織にタカシを取られるのを見たくなかったの」
「実はあのときすでに引っ越しすることが決まっていたの。
 離ればなれになってしまうって分かっていて、
 それで叶わぬ恋だって分かっていたから」

夏美がそんなことを思っていたなんて気付きもしなかった。

「夏美…」

月明かりの下で夏美とはじめてキスをした。
夏美とキスしたことなかったな。そういえばキスしたのは香織と由美子だけだったな。
気付いてあげられなくてごめんな。あの頃はまだガキ過ぎちゃって…。
そんなことを考えながら、愛しむキスを繰り返した。

「もう帰らなきゃ。お母さんが心配しちゃう」
「タカシ。近いうちにデートしようよ」

「うん」

一週間ほどして夏美と一日を過ごした。そして夏美を抱いた。

帰り際、夏美に聞く。

「今度はいつ逢える?」

夏美は明るく変わらない笑顔で
「しばらく忙しいから、落ち着いたら連絡するね」と答えた。

それから10日ほどの日が流れ、夏美から連絡が来ないことに不安を覚える。
再開したときのコンビニへ行ってみよう。そう考え、オートバイを始動させる。
コンビニに入り、周囲を見回す。夏美はいない。
レジに立っていた店員に「今日は夏美さんは?」と聞いてみる。

「辞められました」

衝撃を受けるような返事が返ってきた。

(まさか…、また…。)

夏美と再開した日に聞いた、夏美が通っている高校を思い浮かべ、
そしてその高校に行っているヤツを思い出す。
(誰がいたかな。そうだコージだ)
公衆電話からコージの自宅へと電話をかける。

「コージか?」「お前の学校に○○夏美って女いるだろ?」
「うん、うん。調べておいてくれ」「明日またかける」

翌日
「タカシ。その夏美さんは先々週に遠くへ転校していったみたいだぞ」

「ちくしょー」
公衆電話のボックスを蹴飛ばす。

「なんだよ…」

2?3日してポストに一通の手紙が入っていた。
差出人には夏美の名前。住所は…、記入されてない。

?あんな偶然にもタカシと再会できて嬉しかったです。
 本当に、本当に、嬉しくて嬉しくてたまりませんでした。
 同時に、悲しくて悲しくて仕方がありませんでした。
 3年前のように、隣の市くらいの距離だったら、
 今のタカシはオートバイに乗っているし
 わたしも原チャに乗っているから、逢うことも出来たのにね。
 でも、今度は遠過ぎるよね。
 あのとき、すでにお父さんの転勤で引っ越すことが決まっていました。
 言い出せなくてごめんなさい。
 タカシと一日を過ごした日のことは絶対に忘れません。
 ありがとう。タカシ
                   夏美

 P.S また、偶然があるといいね。?

急いで封筒の消印を見る。
本棚から地図を取り出す。その地図を開いて消印に書かれている地名を見て、ざっと距離を見る。800キロもあるのか。

大きなため息をつく。

ヘルメットをかぶり、グラブをはめるとオートバイを海へ走らせる。
砂浜に座り海を眺める。空気はそれまでの夏の空気から秋の空気へと変わっている。
クロッキー帳を開き、夏美の笑顔を思い出し鉛筆を走らせる。
笑顔だったかと思うと急に頬をふくらまし口をとんがらせる。
そんな表情を思い出しながら、笑顔の一番かわいい瞬間を切り出し描き出す。

続いて香織の冷たい眼差しを思い出して鉛筆を走らせる。
あまり笑わない香織。時々目がにこっとする。
スリムな身体に髪がなびく様子を思い描き香織を描き出す。

書き上がった2枚を見比べる。

「香織と夏美とどっちが好きだったのかな」
そう自問自答する。
「二人とも好き」
「タイミングが悪かったのかな」

クロッキー帳から描いた2枚を破り取り、紙飛行機を折る。
海辺に渡る風に想いを乗せて紙飛行機を飛ばす。
指先から離れた瞬間に一機、また一機と、二機の紙飛行機が空へと舞い上がっていった。

                         ?完?

2009年夏頃に書いて某掲示板に載せたものを2010年3月書き直し。

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