紫陽花の坂道

2007-06-01 (金)

「サチ」
「明日の土曜は空いてる?」
「紫陽花でも見に行こうか」

梅雨の鬱陶しい日が続いていた。天気予報では明日は晴れるらしい。

「僕は明日は午前だけ学校があるので、午後からなら大丈夫」

「鎌倉だったら明月院か…、成就院か…、長谷寺か…」
「じゃあ成就院へ行って、それから海に行こう」

サチは学校がないから先に鎌倉に行ってるという。

「じゃあ14時には長谷に着けるから、長谷駅の改札のところで」

翌日は朝まで雨が残り、昼前には雲も取れ空はすっかりと晴れた。
学校が終わり、東京駅から駆け足でスカ線に乗り込む。
鎌倉で乗り換えて長谷駅に着いたのはまだ13時。

…ちょっと早すぎたなぁ。
…BananaMoonでコーヒーでも飲んでようか。
…それとも長谷寺でも行って時間を潰すか。
…よし、長谷寺へ行って、長谷寺の紫陽花も見て来ちゃおう。

改札を下りてすぐの道を右に行き、観音前を左に入る。
山門をくぐり、参道を上がっていく。
たくさんの小さなお地蔵さんが所狭しと並び、色々な種類の紫陽花の花が咲いている。

参道を上りきる少し手前で僕は息を呑む。
小さな小さなお地蔵さんの前にしゃがみ込み、手を合わせる女性の姿。

「サチ……。」

ハッとした顔で目が合う。サチはすぐに目をそらす。

僕も隣にしゃがみ込み手を合わせる。

「行こうか」
「上に行けば海が見えるよ」

サチの手を強く握って参道を上る。
たくさんのお地蔵さんに囲まれてゆっくりと上る。
たくさんの紫陽花に囲まれてゆっくりと階段を上る。

「ほら、紫陽花の向こうに海が見える」

雨上がりの紫陽花の葉には水滴が光ってる。
紫陽花の向こうには海が太陽の光を受けて輝いている。

葉から水滴が一筋流れ落ち、振り返るとそこにはサチの笑顔があった。

カテゴリー: 02 romance タグ: パーマリンク