コメディ・東屋でござる

2008-07-22 (火)

横浜中華街 小さな公園にある東屋

中華街の喧騒の中、東屋では怪しい風体の連中が集まっている。
中年を過ぎた年齢の者、まだ二十歳を超えたばかりくらいの若者。
男ばかりではなく、女もいる。子連れのファミリーもいる。
サラリーマン風の者。アウトローのような風体をした者。車椅子の者までいる。
どの様な集まりかはまるでわからない。

それらの連中が思い思いにウイスキーのグラスを傾けたり、
つまみに手を伸ばしたりして談笑している。

**

遠くからオートバイの排気音が聞こえる。
喧騒溢れる中華街の路地にも拘わらず東屋まで聞こえると言うことは、
かなり大きな音を立てて走ってきたようだ。

「誰か来たかな?」

「カワサキの単車の音だな」

「山本じゃねーの?」

「山本は先週トンネルにへばりついてあちこち骨折して入院しているはずだぞ」

「まさか来るはずないよね」

「ねえ、チャゲさん?」

皆が車椅子のチャゲの方を見る。

「この音はZRXだな。その”まさか”。きっと山本だろうな。
      おっはよー!と言いながら入ってくるんじゃないかな」

と、チャゲが言う。

それからすぐにタイヤを鳴らしてZRXが止まる。
長身のライダーはバイクから降りるとヘルメットのシールドを上げ、

「おっはよー!!」

と言いながらこちらに向かって歩き出した。

「あははははははは」

東屋にいた一同が大笑いする。

「山本ぉー。お前、トンネルとお友達になって入院してたんじゃねーのかよ?」

「今日はゴリラのような男の看護師が担当だったから逃げてきたんだよ」

「しょうもねーなー。ギプスで固めたままオートバイで高速使って200キロも走ってくるヤツなんてそういないぞ」

「今日は泊まっていくんだろ?
   傷の早い回復には一杯飲むのが血行が良くなっていいぞ」
「ジンジン、ドックンドックンと気持ちよくなるぜ」
「せいぜい悶えてくれよ」

「オートバイは誰かに回させればいいな」
「アキオ。あとでホテルまで回してやってくれ」

**

中華街の路地に行き交う人々を見ながら缶ビールを飲んでいたカーナシがジッと一点を見つめている。
それに気付いたものが一人、また一人と一点をジッと見つめては火花を飛ばしている。

「オイオイ、何をみんなでガン飛ばしてるんだよ」

そう言いながら車椅子の向きを変え、皆が見ている先に視線を移すチャゲ。

「大人気ないな」

ぼそっとつぶやく。

どうやらガンを飛ばしていた相手は二人の警官のようだ。
その警官は東屋に向かって歩いてくると周囲を見回し、

「みんなお酒を飲んでいるようだけど、バイク乗りっぽい人もいるね」
「まさか飲んで運転して帰ることはないよね?」

「もっちろーん」とビールを煽りながら山本が言う。

「ちょっとここの会の責任者は誰かな?話を聞かせてもらいたいんだけど」

と警官。

「責任者は俺だけど、何を聞きたいの?」

と、車椅子のチャゲが言う。

「キミ?」
「本当にキミ?」

警官は車椅子のチャゲの姿を眺めては素っ頓狂な顔をしている。

「その素っ頓狂というか、鳩が豆鉄砲食らったような顔はなに?」
「車椅子のヤツが責任者だったらおかしいかい?」

サングラスを外して警官を睨み付けるチャゲ。

 
「私も共催している責任者の一人ですが」
「申し遅れました、私、ミナトテレビ報道局のこういう者です」

と、ジャックが首から提げたIDカードを警官に見せながら言う。

その姿を見ていた周囲の連中から
「ジャックさん、さっきまでIDカードぶら下げてませんでしたよね」
の声が聞こえる。

 
「あー、日本通信社の和倉と申しますが、
    すいません。どうしたんですか。事件ですか?」

見るからに報道カメラマンの風体をした和倉が立っている。
腕には日本通信社の腕章をし、
大きく長いレンズを付けた一眼レスカメラを二台ぶら下げて、
手には手帳とボールペンを持っている。

「和倉さん、さっきまで子煩悩なパパの顔をして娘さんと遊んでませんでしたか?」
「それよりもいつ着替えたんだろ」

笑い声混じりにそんな声が聞こえる。

 
「君達も仲間なのか?」
「それよりもこの車椅子の彼が本当に責任者なの?」

と、警官が言う。

「だからさっきから責任者は俺だと言ってるでしょ」

チャゲが段々イライラしてくる。

和倉は警官に畳みかけるようにと次々と言葉を投げかける。

「それで、どのような事件なんですか?」
「報道の自由を奪うんですか?」
「国民の知る権利も奪うんですか?」
「あなた方には事件のあらましを説明する義務がある!」

 
「ねーよ」

そんな声が周囲から聞こえて、クスクスとした笑い声がする。

「ここじゃなんだから、すぐそこに薩摩町署があるからちょっとご足労願えないかな」

「ちょっと待った」

2mほど離れて座っていたM姐が言う。

「お巡りさん、警察官職務執行法の第2条言ってみて」

「え?第2条は…第1項が…えーっと…」

警察官が条文を言い始めるよりも前にM姐が言い出す。

「第二条  警察官は、異常な挙動その他周囲の事情から合理的に判断して何らかの犯罪を犯し、若しくは犯そうとしていると疑うに足りる相当な理由のある者又は既に行われた犯罪について、若しくは犯罪が行われようとしていることについて知つていると認められる者を停止させて質問することができる」
「それでは、この場合、犯罪を犯してますか?またはこれから犯罪を犯そうとしていると疑うに足りる相当な理由を説明して下さい」

警官が口を挟むよりも前にM姐が続ける。

「第二条の2項では その場で前項の質問をすることが本人に対して不利であり、又は交通の妨害になると認められる場合においては、質問するため、その者に附近の警察署、派出所又は駐在所に同行することを求めることができる」
「そうありますが、この場合、どこが本人に対して不利であり、公園という場に於いて交通の妨害になり得る理由を説明して下さい」

さらに警官が口を挟むよりも前にM姐が続けようとする。

「第3項では…」

と、言い出した頃に後ろから歌が聞こえてきた。

鳴り渡る 自由の鐘に♪
盛り上がる 平和の力♪

 
警官が歌を歌っている男の姿を見た。

男はなおも歌を続ける。

明るくも 正しく 強く♪
挙りたつ 我ら4万♪
その名こそ おお おお……♪

「他所のことに首を突っ込むことはしないが、
   法を犯すことはしないと約束できるので、
   ここは一つ………な?」

男の言葉で警官は引いた。

「くれぐれも飲酒運転はしないようにして下さい」

そんな言葉を残して二人の警官は中華街の雑踏に消えていった。

 
「ところでM姐さん。なんでそんな条文を暗記しているんですか?」

カーナシが聞く。

ニヤニヤと笑ってるだけで答えないM姐。

「チャゲさん、教えて下さいよ」

チャゲに振るカーナシ。

「昔、レディースだったんだよ。鉄パイプ持って、車高短に箱乗りしてたって聞いたぜ
   現役時代に警官とやり合うには理屈も必要なんだろ」

「チャゲこらー!!」

「ちょ…まて…それ障害者虐待だって」

「都合の悪いときだけ障害者ぶるなー!」

「あははははははは」

東屋に笑い声が響く。

「ところで内田さん。さっき…」

チャゲがさっき歌を歌っていた男=内田を見ながら問いかける。

「さっきの歌はなんの歌なんですか?」

「ん?さっきの?ああ、あれ、警視庁の歌なんだ」
「神奈川県警の歌を知らなかったので警視庁の歌を歌ってみたの」

「そんなところだとは思ったけど、警視庁の歌なのか」
「しかし、内田さんIT業界なのに同業の振りしているんだもん
   笑いを堪えるのが大変だったよ」

「警官だなんて一言も言ってないでしょ」
「ただ警視庁の歌を歌って、法は犯しませんから、一つ…。
   と、言っただけじゃんね」

「タヌキとキツネばっかだな」

「さて、飲み直そうか」

「乾杯。おつかれー」

夏の東屋の夜は更けていった。

※この話は登場人物が誰かに微妙に似た人がいちゃったり、松戸の帽子の男に出てくる人物に似ている人がいちゃったりなんかしますが、ただのパクリですから気にしないで下さい。はい。(^_^; あと、もちろん、100%フィクションDea??th。
最後に、スピード感大事にしたかったら書いているうちに警官を畳みかける形の文章になっちゃったけど、本職の人みてたらコメディと言うことで笑って許して下さい。(^.^)ご(-.-)め(__)ん(-。-)ね(^.^)

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