まるでヒステリーをおこした女のよう2サイクルの甲高い咆哮が周りの建物を震わせ車体は天に向かって立ち上がろうとする。
交差点手前では2段、3段とギヤを落とし必要以上に回転が上がったじゃじゃ馬が嘶きを発する。
昨夜の強風にさらわれた木の葉が道いっぱいに広がり、また違う風に踊らされている
まるで木枯らしの精のようだ。
今頃は何をしているのだろう。
あの子に逢いたい・・いや贅沢な・・いや迷惑な話だ・・やめとけ。
せめて彼女が住んでいるあの街へなら・・
「お前はなんて女々しい奴なんだ」
そんな声が爆音と北風の中に聞こえてきた。
それはシャボン玉でも扱うよう付き合い方だった惚れたがゆえか
キスしか出来なかったあの子
最終的に「優しすぎるよ」彼女の涙をじっと見つめながらそんなふられかたをしたっけ。
それなりに女とのいくつかの夜を過ごし、快楽をあたえ気の利いた甘い言葉の一つも囁けると自負していた。
それなのに茶番な話だ。
「調子にのるな」
夢は蜃気楼のように遠ざかり目の前の現実には伸びきったカップラーメンと食べかけの冷えた飯がテーブルに並んでた。
取巻きの人間は同じ二輪を駆るも空気が合わない奴ばかりで、すれ違うのも嫌になりバイクに乗ることに遠ざかっていた。
シトシトと降る雨の午後一人ベッドにもたれながらバイク雑誌に写る奴らを眺めていた。
テーブルの上にギラギラとした割ったガラスを敷き危険な腕相撲をする男達
「ヘーぇこんなバイク乗りもいるのか」ふと思ったりしていた。
そんな屈折と退屈の中であの子だけが温もりであり光だった。
もう直ぐ街に着く
こんな田舎町だ街並みなど変わるはずもなく自動販売機でコーヒーをだらしなく口に含んだ。
逢えるはずもないのに胸の鼓動が止まらない意識すると余計に回転が上がってゆく感じだ。
どうしても彼女の事が知りたくなり公衆電話に手を掛けたダイヤルを回す勇気もなくガシャンと受話器を置いた。
後悔を背に湿っぽい排気音と共に帰路についた。
随分と経ったころ、俺の名前を呼ぶ馴れ馴れしい男の声がした。
「ほんと久しぶりっすねぇ!」
相変わらずノリが軽く暑っちぃ奴だ。
コイツは路線は違ったがバイク乗り・・いや純粋な悪党だ。
女をナンパし食事をご馳走すると言いながらコンビニ弁当を投げ与え夜に至ってしまうような奴だった。
だが非常に純粋なところもあり妙なところで気が合った後輩だ。
そんな奴から彼女の事が口にでた。
現在は酒もタバコもやらない男と家庭を築き、もう直ぐ3人目が生まれるという
なぜコイツがこんなにも彼女の事に詳しいのか?実はコイツ・・彼女のいとこなのだ。
心無い振りをし「あいつ幸せにやっているのか?」と聞くと「うん、だね。」とだけ返事をした。
そうか幸せならいいや。首筋をやさしい風が過ぎて行く
風がまた「女々しい奴め」と笑った。
END