黒猫にゃー。の冒険 -3 書類を届けるにゃ

2008-03-31 (月)

黒いにゃー。は今日は多摩川のほとりにある営業所に来ています。

大都会の東京と言っても、ここは喧騒を離れて、柔らかな春の陽射しを受けのんびりしています。

「つまらないにゃー」
「おもしろくないにゃー」

黒いにゃー。はあまりの退屈さに散歩に出ることにしました。
多摩川のほとりから、小さな工場(こうば)が並ぶ町へと黒いにゃー。は出て行きました。

黒いにゃー。は、あちこちの町工場を眺めていきます。
なにやら金属の加工をしている工場や、機械の組立をしている工場もあります。

「!」
「にゃーだにゃ」

おや、黒いにゃー。は何かを見つけたようです。

黒いにゃー。は小さな町工場の、開けっ放しの引き戸に近づきました。

   「えーと、この図面と、それと…、モーターはこれ」
    「センサーはこれで、あとは……」

町工場のオヤジさんは、どうやら黒いネコが描かれている袋に書類を詰めて、送ろうとしているところのようです。

「どうやら運ぶみたいにゃ」
「ここで待ってるにゃ」

黒いにゃー。は、その書類が運ばれる荷物だと気付いて待っているようです。

カシャ。

開け放たれていた引き戸が閉まると、町工場のオヤジさんは鍵を閉め、一歩踏み出すと空を見上げました。そして駅の方へと歩き出しました。

「そっちじゃないにゃ」
「こっちにゃ」

どうやら営業所とは逆の方に歩き出してしまったようです。

「ニャー」
「ニャー」

黒いにゃー。は町工場のオヤジさんを呼び止めようとしますが、立ち止まる気配はありません。黒いにゃー。は付いていくことにしました。

「駅にゃ」
「どうしようかにゃ」

「乗るにゃ」

黒いにゃー。は、改札を通る人の足許をくぐり抜け、ホームへと入ってしまいました。

「書類を届けるにゃ」

やがて電車が入ってきて、町工場のオヤジさんは乗り込みます。後に続いて黒いにゃー。も乗り込みます。

黒いにゃー。は昼間の空いている電車に乗ると、シートに飛び乗りました。
電車は鉄橋を渡り、窓の外は多摩川の水面が光っています。

「いい天気だにゃ」
「どこに届けるのかにゃ」

黒いにゃー。の隣では、町工場のオヤジさんが不思議な顔をして黒いにゃー。のことを見ています。

****

   「ニャー。ニャー」

「……おやおや、このクロネコはどこに行くんだろうか」

「クロネコ君、どこに行くんだい?」

   「ニャー。ニャー」

町工場のオヤジさんはニコニコしながら黒いにゃー。のことを眺めています。

「……おや…、この宅急便の袋に描かれているクロネコにずいぶん似たネコだな」

書類が入っている袋に描かれているクロネコと、黒いにゃー。を交互に見比べながら何かを思ったようです。

「キミは…、この絵のクロネコ君と同じクロネコ君なのかな?」

   「にゃあ!」

「そうか、そうか、じゃあ一緒にこの書類を届けよう」

どうやら、この町工場のオヤジさんは黒いにゃー。が袋に描かれているクロネコと同じネコだということに気付いたようです。

「クロネコ君、もうじき降りますぞ」

****

ピンポーン

「はーい」

   「書類届けに来たんだ」

「あれ、珍しいですね。今日は宅急便じゃないんですか。どうしちゃったんですか?」

   「あまりに天気が良くて気持ちよかったもんでな。それで散歩がてら届けに来た」

「それより…、この黒いネコさんは?」

      「ニャー」

   「ずっと一緒だったんだ。だからこのクロネコ君と一緒に届けに来たんだよ」

      「ニャー」

「またまた。何を冗談言ってるんですか(笑)」

      「ニャー!」

   「本当なんだよ。なぁ?クロネコ君?」

      「ニャ」

「じゃあ、今からこの黒いネコさんと、公園で散歩ですね」
「いってらっしゃい。黒いネコさんっ」

      「ニャー」

****

「配達終わったにゃ」

黒いにゃー。は、町工場のオヤジさんに向かって「にゃー」と鳴くと、次の荷物を探しに駆け出して行ってしまいました。

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