2009-01-28 (水)
「あら、素敵な絵ね。この絵は誰が描いたのかしら。患者さんかしら?」
ナースステーションに置いてあった絵を看護師長が手に取りつぶやく。
画用紙に描いたその絵の裏をひっくり返してそこに書いてある文字を読む。
「ぐーぐーランドって書いてあるわね」
「どこかしら…」
「松浦さん、この絵は誰が描いたのか知ってる?」
「これなら大川端さんが描いてましたけど…」
「大川端さんが?」
「大川端さんがこんな素敵な絵を描くなんて思わなかったわ」
看護師長はもう一度絵を手に取り、その絵を眺める。
そして絵に描かれているぐーぐーランドに思いを馳せる。
「どこなのかしら…」
看護師長は意識が遠のきその場に倒れ込む。
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丘の上から眺めると遠い先まで花畑が広がっている。
そこは一足早くに春がやってきたかのように色とりどりの花が咲いている。
花畑や、野原には動物さん達が遊んでいる。
花の中に鼻を差し入れ、匂いを嗅ぐアジアゾウ。
野原を駈け回るヒツジさん。
そのヒツジに追いかけ回される、サラブレッド然としたウマ。
花畑にしゃがみ、花や葉でリースを作り、ポニーの頭にかける少女。
いやいやをしてリースを落としてしまうポニー。
そんなのどかで夢のような光景が広がる。
「いらっしゃい。師長さん」
リースを作っていた少女は作っていたリースを師長さんの頭にかけて微笑みながらもう一度言う。
「いらっしゃい。師長さん」
師長さんは左右を見回してビックリした顔でリースを頭に載せる。
「ここは?」
師長さんの問いかけに少女が微笑む。
「ぐーぐーランドなの」
**
看護師長がベッドの上で目を覚ます。
「はっ、ここは?」
周囲でナースが心配そうに覗き込む。
「師長は貧血を起こして倒れていたんですよ」
「ビックリしちゃいました」
「お花畑は? ほら、丘にあるお花畑よ。」
「そう、ナースステーションに絵があったでしょう?」
「大川端さんが描いた、丘から見たお花畑の絵」
キョトンとした顔をするナース。
「そんな絵、見なかったですよ」
「師長、お疲れになってるんですよ」
「今日はぐっすり休んで下さい」
「夢を見ていたのかしらね」
「いい夢だったわ」
「それじゃあ私は戻りますから、何かあったらナースコール押して下さいね」
ナースは師長に一礼すると開け放たれたままだった扉を閉め、個室から出て行った。
閉まった扉の内側にはリースがかけられていた。