?2008-05-10 (土)
初夏の陽射しが目に眩しい。
もうじき夕方になろうという時間なのに、風がやむとアスファルトからの照り返しが暑いくらいに感じる。
オートバイは藤沢駅から片瀬県道を南下する。
湘南江の島の駅前をゆるくアールを取り、充分に減速して江ノ電の軌道を跨ぐ。
しばらく軌道に沿って慎重に走り、腰越駅の手前でもう一度軌道を跨ぐ。
小動の交差点で左折のウインカーを出して信号待ちをする。
眼前には白く輝く海が広がる。
…もう夏だな。
夏が近づくと南風が入り、オンショアの風が波をぼてぼてにさせる。
…いい季節だ。
R134側の信号が黄色になり、赤になりギヤを1速に落とす。
信号が青になると僕は飛び出し、海沿いの国道を2速、3速と加速していく。
鎌倉高校前の信号にさしかかったとき、視線に一人のサーファーが目に入る。
「あっ!」
ミラーをチラッと見て後続車がいないことを確認して急制動をかける。
キキキッとタイヤを鳴らして信号を過ぎたところで止まる。
振り返ってジェットヘルメットのシールドを上げる。
…やっぱマリコだ。
大きな声を出して手を振る。
「マリコ?!」
僕に気付いたマリコも大きく手を振り返す。
「久しぶりだね」
「年末からだからもう5ヶ月も経つのか」
「今日はもう海から上がったの?」
「こんなぼてぼての波じゃしょーがねーだろー」
道端でいくつか話したところでマリコを誘う。
「お茶でもしに行こうか?」
**
シャワーを浴びにアパートへと戻ったマリコを待つ。
アパートの脇にバイクを停めさせてもらい、僕はアパートの玄関先に座ってタバコを吹かす。
空を眺めて言葉を繰り返す。
…もう夏だな。
…暑い夏が来る。熱い、熱い夏が…。
…冬の間はどうかしていたんだ。
シャワーを浴びたマリコがアパートから出てきた。
「夏はまだなのにずいぶん日焼けしてるな」
笑顔で応えるマリコ。
「今から藤沢に出たら一杯やるのにいい時間だから、飲みにいくか?」
「バイク?明日まで置かしといてよ」
「ん?」
「だって飲みに行くのにバイクじゃ行けないだろ」
「泊めるなんて言ってないって言ってもさ…」
「うん…、」
「一晩かけてゆっくりと年末のことを謝るよ」
「許せなかったらアパートに入れなければいいしさ」
「許してくれるならアパートに泊めさせてくれよ」
マリコの顔はすでに笑顔。
焼けた顔の笑顔が眩しいサーフィンライダー。
「さて、行こうか」
肩を引き寄せて坂道を降りる。
長い夜が始まる…。