九月の雨

2007-09-29 (土)

踏切の警報機が鳴り遮断機が下りる。

ゆっくりとブレーキングをし、停止する。

向かいを横切る貨物列車にヘッドライトの光が当たり、映画のスクリーンのようにこれまでの日々が映し出される。

  ……私、故郷に帰ろうかと思うの。
   ……あなたはいつも私のことを見てくれてなかったじゃない。
   ……そばにいてもらいたいときには、いつもいつもいなかったじゃない。

雨のせいか、涙のせいか映像がにじむ。
「行こう」

小さく心につぶやく。

警報機の音が鳴りやむともう一度口に出してつぶやく。

「行こう」

どうしてももう一度だけ顔が見たい…。そんな衝動に駆られてバイクを走らせる。
顔を見たからってどうなるわけでもない。それでも気持ちを抑えられずにバイクを走らせる。

ついこの間まで暑い夏だったはずなのに、今はずいぶん冷たくなった雨が降っている。
秋の雨はシールドを流れ、身体を冷やして流れていく。

前を行く車のテールランプ。対向車のヘッドライト。街の灯り…。それらが雨粒に反射しては雨粒と一緒に後ろに流れていく。

都心を抜け6号をひたすら北上していく。まだ暖かいと感じた秋の雨は徐々に冷たさを増して身体を冷やしていく。

…September rain rain 九月の雨は冷たくて…

雨粒が小さくなり、シールドに当たる量も少なくなってきた。
もうじき前線を抜けるのか…。

もうじき5時。日立を越えればそこはあなたの住む街。

雲が薄くなり、雨粒も当たらなくなった。
遠く右手の空が少しずつ明るくなっていく。

高萩。あなたの住む街。
6号から右へ折れ海を望む。雲の切れ間から日の出の太陽が顔を出す。
バイクを停め、缶コーヒーを買って蓋を開ける。

「今はこの街にいるのか…」

朝日に向かって大きく深呼吸をしてエンジンをかける。

「ごめんね。そしてありがとう」

そうつぶやいて僕は自分の住む街へと、南に向かって加速させる。
同じ過ちを繰り返さないようにと、新しい朝に誓いながら。

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