2009-06-11 (木)
52×15夜が明けている時間だけど薄暗い風雨の中を走る。
先頭を行くハルが右腕を差し出しコンビニを指さす。
コンビニの駐車場で休憩する。グラブでぬめる指先をレーパンジャージで拭い、おにぎりを口にほおばる。そしてコーヒーで流し込む。
「一気に上れるかな」
「テツは黙々と行けそうだな」
「俺は無理だな」
「絶対途中で挫折」
「すでにヤバイ」
「箱根峠から県道の20」
「箱根峠で一度待ち合わそう」
「OK」
「じゃあ俺は先に行くぜ。畑宿までには間違いなく挫折して休み入れるからよ」
「お先」
52×19マジに畑宿までだな。
42×17うへー
42×21うへー。23入れてくりゃ良かった。
一番軽いギヤでひたすら上る。うへーと思いながらも小気味よいリズムでクランクを回していく。山影になり強い風も一段落している。
左にアールを取り、一時的にきつい勾配になるときだけ、ペダルに立ち上がり強く踏み込む。
しかし、その小気味よいリズムも、呼吸の乱れとともにリズムも乱れていく。
右のアールで後ろにハルがいることを確認する。あっという間に追いつかれ、俺を抜き去ると大きく無駄なアクションを取ってぎしぎしと上っていく。
42×21身体全体から湯気が立ち上っているんじゃないかと思う。
少し休もう。でも休むと走り出すのがしんどくなる。でも休んだ方がいい。
頭が葛藤を起こす。
畑宿。左のヘアピンの急勾配をなるべく勾配を減らすためにセンターライン側へと向かう。
だめだっ。無理だっ。降りて汗を拭い自転車を押す。
押していると先行していったハルがタイヤを交換している。
パンクしたタイヤを木の枝に投げ飛ばし、
「うわっ、ヘビだっ!」
と笑う。
「先行くぞ」
「すぐに追い越されるだろうけどな」
身体を前に屈ませハンドルステムを掴む手に力を入れる。
黄色のジャージ姿が現れ、大魔神とテツが上っていく。
追い越しざまに、「乗れ!漕げ!」とかすれた声が聞こえる。
ようし、もう一番急なところは終わる。
跨るとペダルを踏み込む。
42×21重い。ペダルが重い。重いペダルを踏み込んでいく。
だが二人の背中は徐々に離れていく。
同時にハルが横に並ぶ。タイヤ交換で遅れていたのをリカバーしてきた。
よし急坂は終わり踏み込んでいく。この先は一度下る。下りで一気に詰めよう。
52×13視界が開け、スピードが上がるに従って雨滴が強く当たる。
袖で目の回りを拭いてはさらにスピードを上げていく。
ハルと並び、テツと大魔神を追う。背中は見えている。
42×17もう一度上るが適切にギヤを選び一気に上る。
「よし、離されない」
芦ノ湖までの下りで一気に追いつき追い越そう。
52×13一気に行くぞ。ドロップハンドルのブレーキレバーの付いている付け値を握り、全体重をかけてペダルを踏み込む。
「 ! 」
その瞬間すべての負荷が失われた。
「 ? 」
空を飛ぶ。ほんの数秒。無音の中で空を飛ぶ。
近づくアスファルト。
「 ! 」
左肩から強く打ち付けられ、雨で滑りやすくなっている路面を転がりどこかに激突する。
頭の中で音が激しく鳴り、すぐに白くフェードアウトしていった…。