?2007-05-29 (火)
「さようなら」
「いつまでも元気で」
そう言って僕はバイクのエンジンをかける。
軽井沢は低い雲が垂れ込めていた。
心を映すように雨が降る。
R18を東に向かう。
碓氷峠に入ると雨は霧に変わる。
右、左、右、左。
ズルッ、ズルッ。
濡れた路面をタイヤが掴んでくれない。
ズルッ、ズルッ。
それでもアクセルを開ける。
前走車に追いつきアクセルを緩めブレーキをかける。
一瞬気が緩む。
前走車は左にウインカーを出して減速する。
「さんきゅー」
気を引き締め、シフトダウンして追い抜きにかかる。
濃霧の中、後ろについて走りたいのだろうけど、すまんね、先に行っちゃうよ。
タコメーターの針が跳ね上がる。
ズルッ、ズルッ。
タイヤが滑りながら右に左にと切り返す。
前走車に追いついてはアクセルを緩める。
ここはもう秋の装い。緑のトンネルは色を赤や黄色に染めようとしている。
霧の中にうっすらと緑、黄色、赤が混じる。樹々は風に揺られ大粒の雨粒を落とす。
前走車は左にウインカーを出す。
「さんきゅー」
「すまんね」
左手を軽く挙げてアクセルを開く。
悲しいとき。それはいつも雨。
心も雨に打たれてゆく…。
高崎インターを左に折れる。
右に大きくアールを取りチケットを受け取る。
合流車線を一気に加速する。
甲高い音が響き、連続した音でシフトアップしてゆく。
アクセルを開け。開け。どこまでも加速しろ。
160…180…230…
前走車…ブレーキング…シフトダウン…加速…
180…210…230…235…240…245…
タイヤの設置感がなくなる。ゆらーゆらー。
上体を少し起こし風圧で減速する。
風圧で雨粒はシールドの上を上に左右にと流れてゆく。
涙も流れ去ってゆく。痛みも流れ去ってゆく。
川越…三芳PA…
雲が薄くなってきた。
所沢を越える。
雲の隙間から日差しが見える。
明日はきっと心に降る雨もやんでいる。
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ふと書き殴ったただの描写。とくになにがどうというのはありません。