?2009-01-13 (火)
一昨年に別館に書いた文章を一部改変。
仕事中、ランダムでかけているMP3からパッヘルベルのカノンが流れてくる。
この季節じゃなかったら普通に聴き流すところなのだが、春を控えたこの季節には一つの思い出が頭に思い浮かぶ。
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記憶は25年以上遡る。
中学2年の冬。生徒会長だった僕は先輩方を送り出す。
先輩方を送り出すため、掃除の挨拶を考え、卒業式の段取りを決め、放送委員のI子とともに卒業式で流す曲を決める。
ショパンの別れの曲
バッハのG線上のアリア
パッヘルベルのカノン
他はもう忘れてしまったけど、あまりに有名なこの3曲を使ったことは覚えている。
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そして、1年の歳月が流れて、僕が送り出される番がやってきた。
仲が良かった放送委員の後輩であるI子が選んでくれた曲が
モーツアルトのフルートとハープのための協奏曲 k.299
アイネ・クライネ・ナハトムジーク 第2楽章ロマンツェ
そして、パッヘルベルのカノン…。
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後輩の送辞に続いて、僕が読み上げる卒業生答辞。
壇上から講堂を広く見回す。同窓生、後輩、恩師、卒業生の家族…。
広く見回してから僕は左上にある体育館の放送室を見上げる。I子と目が合う。
「ありがとう」
そんな思いを胸にマイクへ向かう。
一呼吸おいて答辞を読み上げる。
…梅の香も匂い始めました今日この頃、私たち卒業生253名は今日、この佳き日に卒業を迎えることができました…
後輩と、恩師に向けてしっかりと答辞の言葉を発する。
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放課後に僕がいつもいる生徒会室と、I子がいつもいる放送室は隣同士だった。
廊下には出ずに、テラスから行き来が出来た。
学校行事があるたびにI子と一緒に流す曲を決めた。
そればかりではなく、賢いI子は行事で会長が読み上げる原稿も作ってくれた。
「卒業式の答辞は自分で作って下さいね」
「まさか在校生が作るわけにもいかないでしょう?」
そんなI子の言葉に僕は卒業生答辞を作り、こうして読み上げている。
…これからはお互い違う道だね…
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卒業式が終わり、校舎から出たところを待ちかまえていたI子。
「せんぱい。これ」と渡された花束。
「私の名札持っててください」と胸から外した青い名札。
そして僕の胸に手を伸ばし
「せんぱいの名札くださいね」
と外す僕の赤い名札。
いくつかの会話の後、僕は気障な台詞の一つも言えずに背を向ける。
振り返らずに手を挙げる。涙を見せないように。
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そんな昔のことを思い出しながら、パッヘルベルのカノンに続けて、フルートとハープのための協奏曲を聴き、普段は開かない引き出しをそっと開いてみる。
あまり使うことのない雑多な事務用品の下にこっそり入れてある青色の名札。
そして「せんぱいへ」と小さな文字で書かれた手紙。
それらを一瞬だけ目にして、にっこり微笑んで引き出しをしめる。
満月を幾日か過ぎた今日、最後に柔らかなClair de Lune(月の光)を聴きながら。