2009-06-10 (水)
「今晩から走り行こうぜ?」
終業式の最中にハルが言う。
「どこへ?」
「どこか。例えば…、伊豆とか」
「台風だぜ?」
「だから行くんだろ?」
「バイクか?」
「チャリの気分」
「泊まるところは?」
「台風来てるんだぜ。観光客なんていねーからガラガラだよ」
「よし、じゃあ行くか」
「1時に影取。モノレールの下」
「OK」
深夜1時30分 影取
「よし行くか」
ハルが飛び出す。
続けてテツが出て、俺、タカシが飛び出し、最後に大魔神が出る。
強い向かい風を脚力で切り裂いていく。
すぐに藤沢バイパスへと入る。きっと誰もがニヤリとし、ハルの確信犯だと分かる。
台風が来ている強風の中の自動車専用道を強くペダルを漕ぎ進む。
自転車が思いっきり傾いた状態でまっすぐに進む。時折強い風が吹くと大きく飛ばされる。
強い風と、時折叩きつける雨粒が口に入る。
聖園を過ぎるとずっと平坦になる。
腕でドロップハンドルを引き上げる。
背筋に力が入り、片足は強く踏み込み、片足は強く引き上げる。
52×13ひたすら漕ぐ。
テツと並び追い越してはハルのスリップストリームに入る。
ハルを抜き去り先頭に出る。
52×14橋梁の軽い上りで大魔神に抜かされる。続けてテツにも抜かされる。
52×13橋梁の下りを利用して、ハルが仕掛け、俺が付いていく。
テツと大魔神を抜かす。
R1をひたすら漕ぎ続ける。
大磯。
警察署の前から警官が飛び出してくる。
ヤベっ。
無灯火くらいのことだけど、車の来ない対向車線へ逃げて、軽く警官から逃げ去る。
52×13雨滴が顔を流れ、雨滴と区別が付かない汗が流れる。
ぎしっ、ぎしっ。音が鳴るかのようにフレームがしなる。
後ろを振り返ると警察署からカブが飛び出し追いかけてくる。
二宮で左へと左折する。
52×17深夜の住宅街の路地をくねくねと曲がり、身を隠せそうな場所に逃げ込む。
一息吐き、煙草の煙が口から吐き出される。
「やめろよ」
「見つかったら只じゃ済まないぜ」
「逃げればいいじゃん」
「もう来ないかな」
「もう大丈夫じゃね」
「だいたい悪いことしてねーし」
「無灯火くらいだろ?」
「その煙草!」
「そか。あとは…」
「家出少年にでも見られちゃってるかな」
「少なくとも、チャリじゃ暴走族には見えないよ」
「さて、そろそろ行こう!」
「行く前に海見ていこう」
「見えるかな」
「西湘の下からどっか海に出られるべ」
「よし行こう」
急に街灯のない真っ暗闇が広がり、強い風とともに潮水が身体全体へと打ち付ける。
テトラに打ち付ける波の音と、風の音が台風の近づきを示している。
「箱根…越えられるかな」
「越えられるかじゃなくて越えるの」
「そこんとこ4649」
「ばーか」
「この程度じゃ道は通行止めにはなってないだろ」
52×13よし行こう。台風の向こう。台風一過の青空の下へ。