電話ボックス

2008-04-14 (月)

ストーリーでもなんでもなく心の風景写真。
記憶の一コマ。

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黒い電話が鳴る。

「もしもし」
「うん。ちょっとだけ待ってて。」
「すぐにかけ直すから」
「15分待っててね」

ラッキーストライクの袋を手に取ると残りが一本もないことを確認する。
「ちぇっ」

財布をポケットにねじ込み、風を通さないジャケットを着て外へと飛び出す。

春だというのに冷たい空気があたりを包み込む。
首をすくめ、ポケットに手をやり早足で歩き出す。
暗い夜道に煙草の自動販売機の灯り。
僕はポケットをまさぐりコインを落とす。
身体をかがめると冷たい機械からラッキーストライクを取り出す。
一本の煙草を口に咥えると火をともす。

僕は電話ボックスへと足を速める。

暗い街に灯る電話バックスの灯り。
緑の受話器を手にしてコインを一枚、二枚と落としプッシュボタンを押す。

受話器の向こうはただ空しく呼び出し音が鳴る。

ガシャン

もう一度受話器を手にとってはコインを落とす。

相変わらず空しく呼び出し音が鳴り続ける。

「まいったな」

時計に手をやると23時。

「最終…」
「間に合うかな」
「よしっ」

僕は駅への道を走り出す。

街灯に映される自分の影が流れていく。
自分の脇を後ろから前へと追い越してゆく。
影は薄くなり、また自分の脇を後ろから前へと追い越してゆく。

…きっとこれからも並んで歩けることはないのだよね。
…この影のように。

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今はみんな携帯を持っているから、家族に聞かれたくない話をするのに電話ボックスまで駆けるなんてことはなくなってしまったね。
寒い夜中、電話ボックスの灯る明かりの中にしゃがみ込み、恋人への長電話をする。
テレフォンカードの減っていく度数を見ながら、逢えない距離のもどかしさを感じる…。さみしくても、それでもほんのりと笑顔になるような、そんな暖かな光景は目にすることがなくなってしまったので、記憶にある情景の断片として書いておきました。

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