偶然

偶然   1994年頃作

気持ちの良い青空の下、海岸線を走る。目を三角にして走るにはもったいない陽気に 僕はすり抜けもせずにゆっくりと車の流れに乗って走る。

遙か前方の信号が赤になって、先頭には観光バスが数台並んで信号待ちをしているのが見える。 さすがに観光バスの後ろをのろのろと走るのも疲れるので、僕は信号待ちの車の列を広めの路肩を使って先頭にでた。

ちょうど先頭に出ようとした瞬間に信号は青になった。僕はゆっくりと観光バスの前に出て、 ゆっくりと海岸沿いの国道を走る。後ろの観光バスと適度な車間でのんびりと走る。

次の信号もまた赤だ。ゆっくりと減速し、停止線に止まったときに後ろの観光バスから軽くクラクションを鳴らされた。 バックミラーを眺めたその瞬間に、バスのガイドさんが乗降口から身を乗り出してきた。

「久しぶり?!」

一瞬誰だか分からなかったけど、すぐに思い出す。

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関越高速が高崎のあたりまでしか開通していなかった頃、どこだかのパーキングエリアで僕に声をかけてきた女の子。 「バイクのナンバーが同じ?!」と言って声をかけてきた。彼女のVTは確かに僕のTZRと同じ「35 36」だった。

雨の関越高速で、些細な偶然をネタに缶コーヒーを飲みながら彼女は言った。

「わたし、バスガイドやっているから、もし見かけたらバスから大声で呼ぶね」

「偶然を楽しみにしてるよ」と言い残して二人別々のスピードで走り去った。

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まさか本当に大声で呼ぶとはね。バイクから降り、僕はバスに近寄る。偶然の再会に握手してお互いの無事に喜ぶ。

後ろに続く観光バスから軽くクラクションを鳴らされる。信号は青になっている。急いでバイクに戻りバイクを走らせる。

次の赤信号まで観光バスの前を走る。次の赤信号で

「次の偶然はいつだろうね」

と彼女が聞く。

「いつか」

という僕の言葉に彼女は笑っていた。

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バイクの思い出を回想しながら僕は考えた。

バイクから降りてしまった今、次の偶然はあるのかなぁ・・・と。

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