2008-03-20 (木)
靴を履き替えて校舎を出ようとすると冷たい雨が降っていた。
校舎を背にして夏美が外を眺めている。
「夏美」
「傘は?」
夏美は首を横に振る。
夏美の上に傘を差しだして
「行こっか」と僕。
夏美はただ頷く。
バス停へ続く坂道を下りてゆく。
すぐ隣には少し上から見下ろす夏美の横顔。
さみしそうな横顔。
バス停でも何も喋らない夏美。
泣き出しそうな横顔。
…気付いていたんだ。
…ごめんな
混んでいるバスに乗り、僕は吊革に掴まる。
夏美は僕の胸に顔を埋める。
「卒業…」
「明日でもういなくなっちゃうんですね…」
小さな声で夏美がつぶやく。
「卒業したら先輩と毎日顔を合わせることもなくなっちゃうじゃないですか!」
声は小さくとも怒るかのような口調で言う。
「夏美…」
…気付かないフリしていてごめんな。
「先輩が私に振り向いてくれないことはわかってましたからいいんです」
僕の心の声を聞き取ったかのように夏美は言う。
「ありがとうございました」
駅までまだ途中のバス停で夏美はバスを飛び降りる。
バスの中から見る夏美の横顔。
雨が頬を伝わり涙に変わる。