黒猫にゃー。の冒険 -4 急いで絵を運ぶにゃ

2008-05-25 (日)

配送に使われている小さなトラックの助手席に、黒いにゃー。がいます。
黒いにゃー。は大人しくシートにちょこんと座っています。
どうやら、営業所から荷物を届ける配送トラックに、一緒に乗り込んだようです。

「あと何件配送するにゃ?」

  「うーん、あと10箇所くらい荷物を届けたら終了だよ」

「もう飽きたにゃ」

  「もうちょっとだから大人しくしていてね」

小高い丘の道を走っていると、急に目の前が開けました。

「!」

「海だにゃ!」

「にゃー!にゃー!」

ドライバーが次の配送先にトラックを停めると、黒いにゃー。はトラックから飛び降りました。

「海はいいにゃ」
「海の向こうには何があるのかにゃ」

黒いにゃー。は海へ向かって坂道を歩き出しました。

**

「にゃ?」

坂道を歩いていると何かに気が付いたようです。
坂道の途中のアトリエには女の人が絵筆を持って大慌てをしていました。
アトリエの表札には「画家 キキ」と書かれています。

黒いにゃー。はしばらく眺めていました。

画家のキキさんは黒いにゃー。に気付くと、黒いにゃー。を抱き上げて話しかけました。

  「どうしよう…」

「にゃー、にゃ?」

  「明日までに展覧会の会場に絵を持っていかないとならないの」
   「でも…、業者の手違いで明日までに持っていけなくなっちゃったの」

「にゃー!」
「にゃー!にゃー!」

  「こんなことネコちゃんに言っても仕方がないわね…」
   「ネコちゃん、ごめんね」

「にゃー!にゃー!」

黒いにゃー。は画家のキキさんの腕の中から離れると走り出しました。

「にゃー。が届けるにゃ」
「探すにゃ」

黒いにゃー。は、さっきまで乗っていた、配送用のトラックを探しに走ります。
坂道を降りきる手前でやっと配送中のトラックを見つけました。

「いたにゃ!」
「乗り込むにゃ!」

  「どこへ行ってたんだい?」
   「もう全部配送終わったところだから営業所に戻るぞ」

「運ぶにゃ」

  「ん?もう全部配送し終わったんだぞ」

「まだあるにゃ」
「あっちに行くにゃ」
「こっちにゃ」

ドライバーは黒いにゃー。の言う通りにトラックを走らせます。

「ここにゃ」
「ここに行くにゃ」

  「ここがどうしたんだい?」

「キキさんが困ってるにゃ」
「キキさんの荷物を運ぶにゃ」
「キキさんのところに行くにゃ」

ドライバーはわけもわからぬまま、アトリエのインターホンを鳴らします。
アトリエの中からは画家のキキさんが焦り疲れた顔をして出てきました。

     「あら…、さっきのネコちゃん」

  「このネコが、ここに来る仕草をしたものですから、ちょっと来てみたのです」

ドライバーは弱った顔をして

  「何か荷物はございますか?」

と聞きました。

     「実は…。この絵を展覧会の会場まで運ばなくてはならなくて…」

  「絵ですか…。うーん、まいったな」

     「やっぱり運べませんよね」

「にゃー!!」

  「そうだ。美術品を運ぶ専任スタッフが今、どこにいるか聞いてみますね」

  「もしもし…」

ドライバーは電話をかけ終わると笑顔で

  「大丈夫」
   「近くに美術品を運ぶ専任スタッフがいるので、今からこっちに向かってもらいます」
   「安心して下さい。明日に届けられますから」

画家のキキさんの顔がみるみる明るくなって、黒いにゃー。を抱き上げました。

     「ネコちゃんが連れてきてくれたのね。ありがとうね」

**

翌日。約束通り、展覧会の会場にキキさんの絵が届けられました。

展覧会の会場では、キキさんの絵の下に黒いにゃー。がちょこんと座り、誇らしそうな顔をしていました。

???
画家 キキさん(伊藤久美子さん)のサイトはこちら。

http://kiki.kumiko-ito.com/?eid=875127
キキさんの大好きな場所が七里ヶ浜なので、七里ヶ浜から上った先辺りをイメージ。

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2008-05-24 (土)

夕闇が街を包み込んでゆく。
霧雨は二人の身体を包み込む。

海沿いの公園のフェンスに寄りかかる。
時折波の音が聞こえる。
名前を口にし、背の低い彼女を抱き寄せる。
長身の身体を傾げ、彼女の唇にキスをする。
傾いた傘が二人を隠す。

    どこかへ行こう。

高速バスが走る。明るさを押さえた車内。
少し開いたカーテンから見える窓に水滴が流れてゆく。
窓ガラスには二人の顔が浮かび上がる。
窓の外はバスを追い越してゆく車のテールランプが赤く滲む。
続くハイウェイライト。

会社が終わり二人は駅のホームで待ち合わせる。
階段を上ると柱を背にして待つ彼女の姿。
目が合い笑顔が広がる。

ボックスシートの脇に立つ。
彼女に腕を回し身体を引き寄せる。
混んだ車内で二人は密着する。
降りる駅が近づく。

    このまま遠くへ行こう

終点のホームに降りる。
ホームの向こうには雨に濡れる街のネオンが広がる。
ホームから人が減ってゆく。
雨に濡れないように彼女の身体を引き寄せる。
もっと先へ行く電車を待つ。
今日、この時間以降、一番遠くまで行く電車。

地方都市へと向かう電車がホームに滑り込む。
電車は雨の暗闇へと走り出す。

    今日、一番の遠く。

小さなホテルで温かいシャワーを浴びる。
濡れた素肌を指が這う。それを唇が追いかける。

    もっと遠くへ行こう。

海に低い雲が垂れ込める。海の匂いを雨の匂いが消し去る。
身体を包み込むのは雨の匂い。そして彼女の匂い。
船室からデッキに出る。船のデッキが濡れている。
船の航跡はすぐに雨の中に見えなくなる。

小さな漁港のある、小さな町。
寂れたコーヒーショップで雨音を背にして飲む温もり。
見つめ合い目を細める笑顔。

たまの晴れた日は日溜まりにたまる猫のよう。
窓際のベッドに寝ころび身体を寄せ合う。

    今日は部屋にいようか…。

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5/23 キスの日

2008-05-23 (金)

5/23 はキスの日。今の季節と、文章の季節が合わないけど…。

***

暦の上でのみ春のまだ寒い冬の日。

平屋建てのコンビニエンスストアの裏でかおり先輩に逢う。
23時で閉店したコンビニの裏、暗がりでひっそりとかおり先輩との時間を過ごす。

「かおり先輩…。もうすぐ卒業しちゃうんですね」

かおり先輩の髪を撫でる。額から髪をかき上げて髪を撫でる。
髪を撫でていた指先は耳へと移動する。耳たぶに触れると、そこへ口を近づけ暖かい吐息を吹きかける。

「さみしくなっちゃいます」

耳元で囁く。

左手の指先はかおり先輩のくちびるを撫でる。

「ふぅ…」

かおり先輩から吐息が洩れる。

くちびるから離れた左手はセーター越しにふっくらとした胸へと移動する。
やわらかいセーター越しに、もっとやわらかい胸のふくらみを撫でる。

「はぁ…」

僕からため息がこぼれる。

(意気地なし)

もう一度左手の指先がかおり先輩のくちびるを捉えて撫でる。

(今、指先で触れている…ここに…くちびるに自分のくちびるを重ねればいいのに…)

左手の指先はかおり先輩の耳たぶへと移動する。
耳元に自分の口を近づけて暖かい吐息を吹きかける。

「さみしくなっちゃいます」

耳元で囁く。

(意気地なし)
 
 
  ――好きだと言えずに。

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夜の帷が降りた住宅街に

?2008-05-12 (月)

「ほら、なにやってんだよ」
「ぼけっとしてるなよ」
「俺のお客さんに失礼なことしないでよ」
「まったくとろいなぁ」

山本がその店にアルバイトとして入ってきたのはもう三ヶ月も前のことだ。
三ヶ月も経つのに要領が悪く、他の従業員達からは邪魔者扱いをされていた。
俺自身、山本を鬱陶しく感じていた。
今日も、俺の馴染みのお客さんに山本が失礼な言動をしてしまい、とても苛ついていたところだ。

夜になり、お客さんもいなくなり店の中は静かになりホッと一息吐く。
閉店の準備まではゆっくりとした時間を過ごせるだろう。
そんなときにポツリと山本が口を開いた。

「実は…」
「今日でこの店を辞めることになりました」

店の従業員の恐らく…、誰もが山本のことを邪魔者扱いしていたから、そのために辞めるのだろうと思ったはずだ。

山本はさらに口を開く。

「***フィルハーモニー交響楽団に入団することになりました」

え?

誰もが疑問を浮かべた顔になっている。

***フィルと言えばクラシックに興味がない人でさえ名前を知っているくらいのところじゃねーか

「フルートを吹いていて、***フィルに入って…、大勢の人の前で演奏するのを夢見ていたのです」

楽器をやっていることさえ知らなかったし、そんな実力を持っているなんて…。

「自分は…、フルートを吹くことしかできなくて、店のみんなには迷惑をかけてきたことはわかっています」
「お詫びに、今日はフルートを持ってきましたので、店が終わったら一曲、聴いてください」

閉店の準備をし、着替えて、電気を消し、施錠する。
店の駐車場に集まると、山本以外は車止めになっているブロックに腰掛ける。
山本はケースを開くとフルートを取り出した。

夜のとばりが降りて、駐車場の裏手の住宅街は静けさが保たれている。

山本はゆっくりとリズムを刻むようにし、フルートを口に持っていくと、小さく優しい音が鳴り始める。

夜の住宅街にフルートの優しい音色が響く。
静かな住宅街にフルートの流れるような音色が響く。
時には優しく、段々強くなり、波打つように音色が響く。

…こんな優しい気持ちにさせることができるヤツだったんだ…。
…こんなに強い意志を持った音色を響かせることのできるヤツだったんだ…。

優しい音色・そして強い音色は、夜の空気を揺らして、店の皆の心を揺らし、共鳴させた。

演奏が終わったとき、そこには感動の笑顔があった。

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misty rain

2008-05-10 (土)

夜明けまであと1時間ほどという時間に目を覚ます。

…ん?

道路を走り往く車のタイヤの音に雨を感じる。

…雨か?

ベッドに横になったまま手を伸ばし窓を開く。
冷たい空気が部屋の中に流れ込む。

…ん?霧か?
…珍しいな。

上半身を起こし外を眺める。

外の街並みは白い霧に覆われている。

霧の中を走るのが好きだ。
極々細かい霧の粒子が身体にまとわりつき、あっという間に濡らしてゆく。
ジェットヘルで走ると咽せるような…うまく呼吸も出来ないような冷たい空気が鼻や口に流れ込んでくる。
そんな中を走るのが好きだ。

…走るか…。

…よし。走ろう。

僕はベッドから起き上がると、ライディングウェアに着替え、その上からレインウェアを着込む。

エンジンをかけると早々ににギヤを入れ、ゆっくりとクラッチをつなぐ。
ゆっくりと…ゆっくりと加速させエンジンを暖めていく。
エンジンが暖まっていくのとともに僕もゆっくりと覚醒していく。

大船駅の観音口側を抜け徐々にペースアップする。

左足、右足と片足ずつステップから足裏を離し、軽く蹴るように脚を投げ出してはジーンズとレインウェアの張りを取りステップに戻す。

…ふぅ。

短く息を吐き気を入れ直す。

…よし。

藤沢へと向け製薬会社の工場前の直線を大きくアクセルを開ける。
タコメーターの針は右へと大きく踊る。
エンジンが高い咆哮を奏でる。
リヤタイヤがアスファルトを捉えきれないまま加速していく。
リヤタイヤがアスファルトを捉えるとフロントを浮かして加速していく。
スピードメーターの針も大きく右へ振れる。

黄色く点滅する信号をパスし、前走車の赤いテールランプを右から一気にパスする。

浜須賀から海岸沿いに出る頃には周囲は徐々に明るくなり、黒い闇は態を潜め、白い世界の中からはより先の輪郭が現れてくる。もうじき霧も晴れるだろう。霧の先へと…。
霧の先にある貴女の心までオートバイを加速させよう。

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サーフィンライダー

?2008-05-10 (土)

初夏の陽射しが目に眩しい。
もうじき夕方になろうという時間なのに、風がやむとアスファルトからの照り返しが暑いくらいに感じる。

オートバイは藤沢駅から片瀬県道を南下する。
湘南江の島の駅前をゆるくアールを取り、充分に減速して江ノ電の軌道を跨ぐ。
しばらく軌道に沿って慎重に走り、腰越駅の手前でもう一度軌道を跨ぐ。

小動の交差点で左折のウインカーを出して信号待ちをする。
眼前には白く輝く海が広がる。

  …もう夏だな。

夏が近づくと南風が入り、オンショアの風が波をぼてぼてにさせる。

  …いい季節だ。

R134側の信号が黄色になり、赤になりギヤを1速に落とす。
信号が青になると僕は飛び出し、海沿いの国道を2速、3速と加速していく。

鎌倉高校前の信号にさしかかったとき、視線に一人のサーファーが目に入る。

「あっ!」

ミラーをチラッと見て後続車がいないことを確認して急制動をかける。
キキキッとタイヤを鳴らして信号を過ぎたところで止まる。

振り返ってジェットヘルメットのシールドを上げる。

  …やっぱマリコだ。

大きな声を出して手を振る。

「マリコ?!」

僕に気付いたマリコも大きく手を振り返す。

「久しぶりだね」
「年末からだからもう5ヶ月も経つのか」
「今日はもう海から上がったの?」
「こんなぼてぼての波じゃしょーがねーだろー」

道端でいくつか話したところでマリコを誘う。

「お茶でもしに行こうか?」

**

シャワーを浴びにアパートへと戻ったマリコを待つ。
アパートの脇にバイクを停めさせてもらい、僕はアパートの玄関先に座ってタバコを吹かす。
空を眺めて言葉を繰り返す。

  …もう夏だな。
   …暑い夏が来る。熱い、熱い夏が…。
   …冬の間はどうかしていたんだ。

シャワーを浴びたマリコがアパートから出てきた。

「夏はまだなのにずいぶん日焼けしてるな」

笑顔で応えるマリコ。

「今から藤沢に出たら一杯やるのにいい時間だから、飲みにいくか?」
「バイク?明日まで置かしといてよ」

「ん?」
「だって飲みに行くのにバイクじゃ行けないだろ」
「泊めるなんて言ってないって言ってもさ…」
「うん…、」
「一晩かけてゆっくりと年末のことを謝るよ」
「許せなかったらアパートに入れなければいいしさ」
「許してくれるならアパートに泊めさせてくれよ」

マリコの顔はすでに笑顔。
焼けた顔の笑顔が眩しいサーフィンライダー。

「さて、行こうか」

肩を引き寄せて坂道を降りる。

長い夜が始まる…。

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やっぱ海が好き

やっぱ海が好き-1

2008-05-08 (木)

ゴールデンウイークの最終日に藤沢・鎌倉へ散歩に行った。

関内から根岸線に乗り、大船へと。
昔は毎日のように乗っていたのだけど、ここ15年以上、ほとんど乗る機会もなく、まして大船まで出ることは一度もなかった。

沿線の光景を見ていると家が増えたこと。そして家が新しくなったこと。マンションが増えたこと。
本郷台駅で「あれ?」と思う。駅のロータリーと逆側の崖がなくなってマンションになっている。
「かわったんだなぁ…」

大船駅は笠間口が出来て、昔からの改札方面へと通路が出来、駅ナカ(?)飲食店などが広がってる。
「こりゃ浦島太郎だな」
なんて思いながら東海道に乗り換える。

武田薬品前ストレートを見ながら記憶は昔に。
植物園の信号で加速して左に大きくアール。バイクを起こし減速し右に小さくアールを取って加速。出るだけ加速。ごにょごにょなスピードから減速し右にアール。ここで早々にねずみ取りを見つけないとならないんだよなぁ…なんて懐かしみながら藤沢駅。

藤沢駅…。

藤沢駅はそう変わってないかな。なんて思いながら南口方面に行くと…、知ってはいたけど西武デパートがなくなってなんか違和感。西武の後に建ったのはマンションなのかな、オフィスビルなのかな。

オーパの手前のビルのエレベーターで下り、オーパの裏手へ進む。
雑居ビルが増えたなぁと思いながら、昔馴染みの店の名を探す。
確実に昔からあるのは久昇か。近いうちに行きたいな。あと、タルタルが残ってたはずだけど…どこだっけ。まだ午前中なのでどこもかしこも閉まっているし、いつも夜に出歩いていたのでいまいちわからん。あれー、どこだっけな。

鵠沼橘の住宅街を往く。
藤沢駅から5分ほどでこんな静かな住宅街なんだもんなぁ。
初夏の陽射しを浴びて、海が近い住宅地らしい感じが溢れている。
ここは変わらないなぁ。

いつも某所女子寮に忍び込むのに細い道をくねくね走ったなぁとか、某女子高まで迎えに走らせたよなぁとか。後ろに女の子乗せて細い路地をくねくねくね。ブレーキング、左右の安全確認、くるっと小さくまわり加速、またブレーキング。こちょこちょ、くねくね。

藤沢駅の方へ戻る。なんか藤沢駅周辺を見ていて思うのは、時間の流れがゆっくりだなぁと思う。あとは、人がある一定の傾向を持っているのがいい意味で笑える。一定の傾向というのは、藤沢に住んでいて、藤沢で働いているような人というのは、横浜とは明らかに違う雰囲気を持っているの。ま、湘南の人ですな。

江ノ電へと向かって歩いているような観光客は、横浜とそうは変わらないけど、飲食店の店員であるとか、小田急デパートで働く人であるとか、江ノ電の従業員であるとか、出身はどこかはわからんけど、でも明らかに湘南の人って雰囲気が漂ってる。いいなぁ、この雰囲気。落ち着けるなぁ。

考えてみると当たり前だよね。青春の何年間かを湘南で遊んでいたのだから、やっぱ湘南は馴染むよね。

小田急デパートの2階から江ノ電に乗る。
20数年前は小田急デパートの江ノ電のりばの前を斜めに突っ切り、漫画湘南爆走族の中で権田二毛作がアルバイトしているアイスクリーム屋を右手に見て階段を下り、江ノ電第二ビルへ行ってた。
今はアイス屋(ソフトクリーム屋だったか)はなく、ちょっとした飲食店になっていた。

江ノ電は混んでいて、とてもゆっくりと外を眺める余裕はなかったけれど、それでも大勢の乗客の隙間から見えてくる外の景色は懐かしい。柳小路からは昔の鵠女。鵠女はどうやら共学になったっぽいのだが、相変わらずくるくるぱーばっかなのだろうか。って、くるくるぱー加減じゃ俺も同じだけどな。

で、江ノ島で下車。
やはり20数年前、いつもいつも某スーパーの女子寮とか、某飲食店の女子寮とか、片瀬や鵠沼辺りの女の子の家を転々としてたりしたわけですが、相手の都合次第で行くところがなくなり、時間的に家にも帰れない場合は片瀬江ノ島の某男子寮に渋々泊まる。そこに泊まっていたときに、外が騒がしくなり(いつも騒がしいのだけど)、暴走族とヤクザのぶつかり合いが始まった。結局、殴る蹴るの流血事件になったことがあったなぁなんてことを思い出したりなんかして。まー、あのへんはよく暴走族同士の抗争だの、東京辺りのスカした連中とのぶつかり合いがよくありました。
ま、先人の七里ヶ浜事件には足許にも及ばない小さな出来事ですがね。

そんなことを思い出しながら道路に江ノ電が走るところを腰越方面に。
生しらす丼を出す店にはどこも長蛇の列が。内心、生しらす丼のどこが美味しいんだよと思う。生しらすは鮮度が良くないとならんから水揚げされる土地へ行かないと食えんから、その物珍しさからありがたがるのかもしれないけど、そううまいものではないよ。釜揚げされたしらすの方がうまいだろ。あんな30人も40人も並んで食うもんじゃねーよ。
と思うのは、漁師の家のクソガキで、生のしらすも食う機会が多かったから言えることなんだろうかね。俺は鮮度の良いしらすを釜揚げにしてそれを熱いご飯に書けて食う方がうまいと思う。

腰越の駅の路地。この路地から飛び出した車と接触したのはHか。それを聞いた俺は鎌倉から七里の鈴木病院へとオートバイを飛ばした。
小動。信号で止まったオートバイ。正面には青い海が広がる。信号が青になり飛び出し、左にアールを取り134に。加速。
そんな記憶を思い出し20年という時間が一気に縮まる。

海…。青い海。
別に東京湾の鉛色の海が悪いとは言わない。港湾の発展は日本の発展。それは致し方のないことで、経済の発展を享受して生きてきた以上仕方のないこと。
だけど、もう少しだけ、もう少しだけでいいから江戸前の魚や貝類が多く生育できる環境になってくれればいいと思う。昨年だったかに江戸前の蛤が復活したように。

いや、そんなことはどうでもいい。外海は横浜の港湾とは違う。
相模湾…、相模灘の海は青い。そしてオンショアの波が白く立っている。
遠くに目をやるとウインドのセールが眩しい水面の間に光る。
早朝、出勤前に、スーツのままウインドで遊んだっけ。膝上までスーツのズボンをめくり、風を捉える。

陸に上がって職場に電話する。
「もしもし。今日、かぜで欠勤します」

「風の音が聞こえてますけど」

そんな女子社員の声に

「だから、かぜですってば」

と笑う。女子社員も笑う。

風邪で欠勤すると言ったって、風で欠席なのは女子社員は百も承知で、いつもいつも失礼いたしました。風が良ければ海に行きたくなっちゃうよね。

で、腰越から小動に出て左折。左に江ノ電、右に海。
海はいいよね。やっぱ外海がいい。

太平洋の気圧が高いところから風が吹く。相模湾では南風となって風が吹く。
ボテボテのオンショアにサーファーは海から上がる。
今って、サーフボードを自転車に取り付けるいい金具があるんだー。へー。

海からの風。肺に吸い込む。そう、この風、この空気。

恵風園の駐車場まで上がりほんの少し高いところから海を眺める。

やっぱ海が必要なのよ。
横浜のような内海、港湾ではなく、外海、そして太平洋から吹く風が必要なのだな。
何百年もの先祖からの遺伝子に太平洋からの風、潮風の匂い、高気圧が身体を押しつける。そんな感覚が遺伝子に刻まれているのだもの、やっぱ海が必要なのよ。
そう改めて実感。

いつもいつも鎌倉高校前に来ていた。ちょっと時間があると鎌高前から海岸に降り、小説を広げる。波の音を聞きながら、風の音を聞きながら。海の匂いを嗅ぎながら、海からの風の匂いを嗅ぎながら。そうして小説を読む。

そんな記憶の残る鎌高前から江ノ電に乗る。
七里の手前で上り下りの待ち合わせをし、七里、稲村、極楽寺。長谷、由比ヶ浜と止まり、和田塚で降りる。

ありゃ。左へ行って右だっけ。右に出て左だっけ。20年の時間が記憶を混乱させる。駅を降りて右に出て左へ曲がる。ありゃ、こりゃ間違えたな。これじゃ第一小から鎌女のところには出られないな。と仕方ないのでそのまま進む。案の定海岸橋の信号へ。

ぼけまくりだな。まぁ、感じの良い路地を通れたので良しとしておこう。

一の鳥居の脇を通り、鎌女前の交差点を越える。
昔、誠一堂という文房具屋があり、途中からモトショップ誠一堂になりました。バイク屋だけど文具も売ってる謎のバイク屋(笑)
隣がやまかストア。ああ青春のやまかストア。そこの2Fがいつも通っていたヘアサロン。今やスキンヘッドなので無縁のヘアサロン。

下馬でレンバイを眺めに若宮大路を渡る。レンバイってのは鎌倉市農協連即売所。野菜を買いたかったけど、もう時間的にどうかなと思いつつ中を眺めて…、うん、やっぱもうほとんどないね。レンバイの裏から出て、ハタと思う。
うーん、確か…。記憶によると…。振り返る。

あった!!!

小町園。まだあるのかよ。もう何十年あるんだよ。俺が知っている限りで30年はある。その30年より昔が何年あるか知らないけど、半世紀くらいは営業してるでしょうな。

もう一度若宮大路に戻り…いい匂い。こんな匂い嗅がされたらもうだめぽ。
これが店の前に小さなテーブルと椅子とがあるんだよねぇ。
右隣の中華大新(だったかな)は、大昔に野菜炒めライスよく食べた。記憶によると野菜の刻み方が細かくて、それだけで大好きだったのだ。

そこから夕飯は何にしようと考える時間になり、藤沢へ戻り「久昇」行くかなとか、鎌倉でどこか入るには微妙に時間が早いなとか考えて、とりあえず駅の辺りでコーヒーでも飲んで考えるかと駅に向かうが、混んでたり、ここという店もなく…、結局、駅の下のアンダーパス通って江ノ電側に。

江ノ電側に行っても混んでますな。
カフェを眺めては混んでるなぁと思いつつ、家人が御成通りに鶏屋さんがあるというので行ってみることにする。さっき鶏肉食ったことをすでに忘れている馬鹿さ加減。まだ30分しか経ってないー。鶏肉好きなんです。はい。

途中、御成通りでハタと立ち止まり、ふと左を見たら、それがラカポシ。

そんなわけで、横浜駅でスカ線乗りやすくなったし(スカ線ホームが最後までエレベーター付かなかった記憶がある)、鎌倉駅も階段部にエレベーター付いたし、行きやすくなったからこれからは時々鎌倉行きますかね。あと藤沢と。

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Rakaposhi(ラカポシ)

Rakaposhi(ラカポシ)

2008-05-06 (火)

お総菜に鶏肉料理を買って帰ろうとして鶏屋へと御成通りを進んでいて、ふと横を見たら cafe の文字。
中を覗くと花の溢れるカフェだったので、ちょうど喉も渇いたことだし立ち寄る。

中に入ると…、花屋とカフェが一緒になっているのね(^_^)

一段上ってカフェに入るところには開き始めたばかりのまだ緑色の紫陽花。

店内はほんのりと花の香。

葉や茎の緑をベースに、淡い色の花が咲くという感じでアレンジしてあり、あまり花、花と、花を押し出してないので落ち着ける。

店は推測するに夫婦でやっているのかな。ご主人は飲食店がやりたくて、奥様はお花屋をやりたくて、その結果花屋とカフェが一緒になったとか。もちろん推測ね。推測。

奥様は(奥様にしちゃったけどあくまで推測)、カフェの注文取ったりはぎこちなかったけど、花屋サイドの電話注文(多分)はとても素敵な笑顔でされていた。

また、ご主人はチーズケーキを持ってきたときだったかに笑顔でぺこりと挨拶されたのだけど、その笑顔があまりに自然でいいなぁと思ったのだ。

帰り間際に、店の定休日と営業時間を聞いたら、つい昨日オープンしたばかりだそうで、まだなーんも決めてないとのこと。あら、オープンしたばっかで立ち寄ったわけね。
オープンしたばっかなのに派手なこともなにもなく、とーっても自然。

直前ファイルの焼き鳥食っていた時間同様、とーってもいい時間を過ごせたので良かった、良かった。

で、結局、鶏屋は休みだったんだけどなー。それと、今、気付いたんだけど、焼き鳥食って、さらに夜も鶏を食おうとしていたのか…。鶏肉好きなんだよなぁ(笑)

flower+cafe
Rakaposhi ラカポシ
鎌倉市御成町2-12

鎌倉駅西口から御成通りを進むと2分くらい先左側。

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招き猫?

招き猫?

2008-05-06 (火)

ちょいと鎌倉まで。
道端に漂う炭火の薫り。
目をやると焼鳥屋。さらには道端にはベンチと小さなテーブル。

ビールと焼き鳥を数種類買って道行く人を眺めながらぐびー。

最初は誰も並んでいなかったのが

道端で食べ出すと、通りすがりの人たちが「あら、おいしそうね」と立ち止まる。

食べ終わる頃には何人も並んでおりました。

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電話ボックス

2008-04-14 (月)

ストーリーでもなんでもなく心の風景写真。
記憶の一コマ。

**

黒い電話が鳴る。

「もしもし」
「うん。ちょっとだけ待ってて。」
「すぐにかけ直すから」
「15分待っててね」

ラッキーストライクの袋を手に取ると残りが一本もないことを確認する。
「ちぇっ」

財布をポケットにねじ込み、風を通さないジャケットを着て外へと飛び出す。

春だというのに冷たい空気があたりを包み込む。
首をすくめ、ポケットに手をやり早足で歩き出す。
暗い夜道に煙草の自動販売機の灯り。
僕はポケットをまさぐりコインを落とす。
身体をかがめると冷たい機械からラッキーストライクを取り出す。
一本の煙草を口に咥えると火をともす。

僕は電話ボックスへと足を速める。

暗い街に灯る電話バックスの灯り。
緑の受話器を手にしてコインを一枚、二枚と落としプッシュボタンを押す。

受話器の向こうはただ空しく呼び出し音が鳴る。

ガシャン

もう一度受話器を手にとってはコインを落とす。

相変わらず空しく呼び出し音が鳴り続ける。

「まいったな」

時計に手をやると23時。

「最終…」
「間に合うかな」
「よしっ」

僕は駅への道を走り出す。

街灯に映される自分の影が流れていく。
自分の脇を後ろから前へと追い越してゆく。
影は薄くなり、また自分の脇を後ろから前へと追い越してゆく。

…きっとこれからも並んで歩けることはないのだよね。
…この影のように。

**

今はみんな携帯を持っているから、家族に聞かれたくない話をするのに電話ボックスまで駆けるなんてことはなくなってしまったね。
寒い夜中、電話ボックスの灯る明かりの中にしゃがみ込み、恋人への長電話をする。
テレフォンカードの減っていく度数を見ながら、逢えない距離のもどかしさを感じる…。さみしくても、それでもほんのりと笑顔になるような、そんな暖かな光景は目にすることがなくなってしまったので、記憶にある情景の断片として書いておきました。

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